episode1-3


「な、なんだったの」


 突然の来訪、初対面、一方的に語って、明日の予定も一方的に決めて去っていった彼女。


 予想外の出来事にまだ頭が追いついてない。



 ああ、そうだ、もう授業始まる。



 そう唐突に思い出して階段へ走る。


 時計の針ももう少しで開始の時刻を指す。


 教室に向かって廊下を走る。人気のない廊下では、足音がよく響いてしまい、恥ずかしさも覚える。


 自教室のドアが見えた。まだチャイムは鳴っていない。



 よし間に合った。



 ドアを開ければ、あの気が張り詰めた受験生たちの空気に刺される。


 チャイムの寸前に教室に入って恐縮を感じながら席につく。テキストとノートを用意して、先生の到着を待つ。


 また肘をついて、窓の外を見てみれば、先程屋上から見下ろした枝が、同じくらいの目線に見える。


 それでついでに先刻のことを思い返す。



 ああ、なんだか大変だったな。



 彼女の印象的な容姿や、それを見て狼狽した己の姿も想像する。そして思ってしまった。


 でも、まあ最近はずっと行ってたし、明日も屋上には行くよな。



 ここ数日毎日行っていたから、特別明日行かなくなる理由はない。


 逆に、屋上に行くのはただそんな理由だけだった。



 同類な相手ならお互い波長もそんなに違わないだろう、とも思った。




 チャイムがなる。


 数秒遅れて先生が教室に入ってくる。


 またつまらない話が始まる。



 私もまた広げたノートの上に肘をつき、シャープペンシルは転がしたままだ。


「でも、あの黒い瞳は綺麗だったな」



 もう一度だけ彼女の顔を想像し、それもすぐにやめて、先生の話を右から左へ聞き始めた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その手の先に 神無月そら @kannadukisola

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ