5: 午前三時の白昼夢
目を瞬かせると、いつの間にか玄関先に座り込んでいた。はっとして鉱物の先端で傷つけたはずの指先を見れば、そこには紙で切ったような痕がある。
再び瞬きをすると、茫然と空を仰ぎ見た。漆黒の夜空には相変わらず星が輝いている。息を吐き出せば、黒い夜空も数瞬の間だけ白く霞む。
ふと思い出したことがあって腕時計を見た。その針は午前三時を差している。記憶していた時間から一分も経っていないようだった。文字盤の小窓から見える日付は、二十三日と知らせている。
夢だと思っていたのに、鉱物が指先を傷つけた痛みは本物だったように思う。外に出る前に、指先を紙で切ったような覚えもなかった。
どこまでが現実だったのだろう。すべてが現実だったのか、はたまたすべてが夢だったのか。それとも自分は白昼夢を見ていたのだろうか。
一瞬の内に見た、長い長い白昼夢だったのだろうか。
しかし、今は午前三時だ。紛うことなく真夜中。草木も眠る丑三つ時すらも過ぎた時間。仮に自分が見たものが白昼夢であったとして、夜中に見た白昼夢は、果たして白昼夢と言えるのか。
あの幻想の空間ならば知っていたのだろうか。自分に行き先を指し示した、あの雪原のカカシならば、知っていたのだろうか。
自分がほんの一瞬の間だけ眠っていたのか、覚醒しながらも幻想の世界にさらわれていたのか、その答えを知っていたのだろうか。
目を閉じて深く深く夜気を吸い込む。しんと冷えた空気が肺を満たした。
瞼の裏では、雪原に佇む、片腕のカカシの姿が、見えたような気がした。
――終
午前三時の白昼夢 芝迅みずき @mzk-sbhy
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