母・有村久代の悩み
私ー有村久代は今、あることで非常に悩んでいる。
白髪の数が一段と増えたことではない。夫・有村浩司についてだ。
「僕はお姉ちゃん子。実家の食べ物も空気も大好きさ」
出会った時、そう高らかに宣言していた夫・浩司は、月に一度は必ずと言って良い程自身の実家に帰り、ニコニコと上機嫌な表情で我が家に帰ってくる。
「姉ちゃんが土産物に買ってくれた。どうだ、スゴいだろう」
そう言って夫ー浩司が自慢気に見せてくるものは、いつもいるのかいらないのか分からないものばかりで、正直見るたびに戸惑ってしまう。
「ちょっとォ、お父さん。そんなもの外着て歩かないでよ、恥ずかしい」
「ゲッ、何処で買ってきたの、そんなもの・・・」
3日前ー夫がお義姉さんからもらってきたものは、乳首がスケスケのTシャツで、こんな物着て歩いた娘たちが恥をかくじゃない!と、思わず悲鳴を上げてしまった。
(全く、主人の実家好きには呆れたわ)
私にも実家はあるが、電車もバスも通っていないドがつくほどの田舎で、
母親と父親が口喧しいこともあって、夫ほど実家を恋しいとは思わなかった。
「今日は何でも好きなもの食べんさい。俺の驕りじゃけぇ」
そう言って、私たち3人を、豪華な食事屋に連れてってくれる、
家族想いで優しいところもあるがーしかし、私とは意見が合わない。
「まァ、こんなに高い寿司・・・」
一緒に食事に行くと、夫には聞こえない声で、私はいつもそうボヤいている。一貫300円ーこんな高いものに、沢山のお金を費やすその神経がまるで理解出来ない。
「母さんは、僕が行きたい大学を何個も受けさせてくれた」
と夫は言うが、私の家は裕福な方ではなく、本命と滑り止めしか大学を受けられなかった。本命の大学に受かったから良かったものの、滑り止めの大学に進学していたらどんな人生が待ち受けていたことやら・・・。
(ま、何処の夫婦にでもある悩みよね、こういうのは。)
そう言い聞かせ、いつも自身を慰めるが、本当は哀しみと無力感で一杯だった。育ちの違い、価値観の違いーそういうものが、【夫婦】という形になると、アリアリと見せ付けられるような気がする。
「とりあえずあのスケスケのTシャツ着るのヤメてくれないかしら・・・」
実家好きも、金銭感覚が合わないのも、しょうがないと諦めた気持ちでいるがーせめて、あのファッションだけは直してくれないだろうか。このままでは私も娘も笑われてしまう。はぁぁ、と溜め息を吐き紅茶のマグカップに手を掛けた。
我が家の問題 @karaokeoff0305
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。我が家の問題の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
さいわい/@karaokeoff0305
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます