夜《あさ》

 ワタシは、月光つきひ。いつ、ワタシが生まれたのかはわからない。気がついたら、そこにワタシはいた。

「月光、どうした。…ああ、朝光あさひと来た道だから不機嫌なのか」

 いいえ、ワタシは怒ってなんていない。

「怒ってないわ。それより、あなたわかってるの? この街で起こってることが」

 この街で、起こってることは誰も理解してない。それは、ワタシも彼もそう。

 危機感という言葉が意味を持たない。ごく自然的に行われてるからか、危機とか危険とかが意味を失った。

「さて、ここはきみが迷った場所よ。ここに来るまで猫に助けられたって話ね。もちろん、それもこのSNSで話題に

「なっていた? ということは、今はまた話の話題が違うのか」

 ええ、そうよ。一歩、また一歩と迷い込んだという路地へ足を踏み入れる。しかし、彼の言ったような場所には出ない。

 路地を抜けた先。もちろん、更に奥へと行っても迷うことなんてない。さっきの場所へと戻ってこれる一本道。――迷うはずがないわけだ。

 辺りを一周し、彼の元へと戻る。大丈夫だったか、と情けない声。もちろん、何もないから「大丈夫」としか言いようがないわけである。

「で、次は妹ちゃんの学校に行くのか」

「それをしたところで、無意味よ。ココにある情報を頼りに行くわ。……え、なにこれ」

 最新のつぶやきをリロードすると、文字化けのしたつぶやきが山ほど出て来る。

「コピーして、テキストに貼り付けてからコードを」

 専門用語で語らないで、少しツーンとした態度でスマホを渡した。

 木々の陰、建物から伸びる影が濃い。変な話、街全体が更新に合わせて変わってるように見えた。無知で、噂をする人が現状を作ってるのではなく。現状が、噂をする人を作ってる。そんなふうに思えてしまった。

「子供が夜、物陰を怖がるのは、それがオバケや怪物に見えるから。この場合は、噂をするから事件が起きる。……と、思い込んでるのかもしれないわね」

「その逆もあるって言いたいのか。確かに、それもあるのかもしれない。事件が起きてから、噂が流行る。噂が先か、事件が先か」

 影と陰の隙間から強い風。月の光に照らされてるはずなのに、辺りは暗い。光を通さない――闇の世界。その闇の世界でしか……ワタシは生きられない。出来るのならば、朝日の出てる時間に動けたら。

「お、読めた。さっきまで全く読めなかったのに……え、コレって」

 読めた内容は、ワタシも驚いた。それを、読む人はきっと驚く。ワタシも彼も。ただ、驚かない人がいるのならば、朝光あさひだけかしら。


――この街は、朝と夜で別な街に変わっている。朝は、生きた者が歩く。夜は、死んだ者が街を歩く。

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非日常へ、ようこそ。 らくれ @ruru_Raku

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