化物《むち》

 ある日の休日、私は一人で街へ出てみた。基本的には、誰かと一緒に行くのだけど、その誰かさんが朝から連絡がつかない。

「むむむ、どうして彼は出ないのでしょうか」

 せっかくおにゅーのお洋服を買ったというのに、彼は出ないのでしょうか。

 5分おきにケータイの着信履歴と新着メールの更新をする。

 姿鏡の前でくるっと回る。……妹は、朝早くにお友達とお出かけしていない。彼は、朝の散歩から帰ってきてない。これは、何か起きてる? この時、私は何を思ったのだろうか。そんなことを思ったゆえの行動とも言えるだろう。

「行ってきます。帰りはわかりません。なるべく早く帰るようにします」

 家族へ出かけると伝え、おにゅーのお洋服とともに街へと駆け出してみた。

 誰かと一緒とは違うこの感じ。いつもと同じ道のはずなのに、少し不思議な気分。妹とも違う。彼とも違う。一人ぼっち……だけど、何処か一人でもない気がする。

「にゃー」

「あら、猫さん。こんにちは」

 考え事をしながら歩いていたら、近くの茂みから一匹の猫さんが出てきました。彼ならば、お菓子の1つや2つ持ってるのでしょうけれど、あいにく私は何もありません。

 猫さんは、私が近づくと少し距離を取る。

「……嫌われちゃったのかな?」

 尻尾を左右に振りながら私から遠ざかる。そっちが呼び止めておいてその態度ですか。いいでしょう。

 気がついた頃にはもう意地を張った子供のように走り出していた。

「にゃー」

 にゃー……なんて可愛らしい声に釣られて、もうここが何処なのかわかりません。お昼をすぎ、で一人ですか。というか、猫さんは何処ですか。

 しかし、猫さんは必要じゃなくなる。そうです、彼です。

「あ、おーい、――!」

「ん? あ、お前一人かなのか」

 少し驚いた表情でこっちに走ってくる彼。それもそうでしょう。あの家から、ここまで一人で来たようなものですから。

 少し後ろを振り向くと猫さんが、何処かへ帰るのが遠くに見える。もう、ここから追う必要はないんでしょう。

「あれ……あのねこ。そういうことか」

「何を一人で納得してるんですか。というか、連絡したのに出ないのはどういうことですか」

 一刺し指を彼へ向けて指す。もちろん、少し怒りっぽい表情で。

「やれやれ、これからご飯でもどうですか――お姫様」

 むー、ともう一度膨れ上がる。ですが、私には、やっぱり彼が必要です。

「はい、行きましょうか――王子様」

 私と彼は、いつもの道へ歩きながらファミレスへ向かいました。


 ……さて、私の前置きはここらへんで、本題へ行きますか。

 この後、お姫様わたしは彼とファミレスで、その日の出来事を話した。そのときに、ワタシは彼に起きたこと聞いた。

「律儀に、日記なんて付けちゃって……

「やれやれ、月光つきひ出かけるぞ」

「はい、――」

 今宵、彼と一緒に歩くのはお姫様じゃないワタシ。ワタシは、月光げっこう――ならば、夜にしか会えない。そんな幻想があってもいいでしょ?


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