第6節…キョウチクトウ
苦しい、苦しい…
地から浮く足、ぶらりぶらりと身体が揺れる。
眼前に薄らと見える腕は私の物だと思われるが、感覚が無く動かせそうに無い。
目の前の物事を処理しようとするが
首さえ動かない。
ただ眼球だけを横にずらせばそこには私の脚。
下を見れば胴体。
もう少しで…。
「ルリミゾカクシ。キキョウ科ミゾカクシ属の多年草。別名…ベリア。原産地は南部…フリカのマラウィ。花期……る。花こ…ばは…………悪意。悪意、ああ悪意い、あ悪意。悪意。悪意。悪意。悪ガッガッ…ガガッ」
"花を食べる機械"の声が鮮明に耳に響く。
私はどうなったんだっけ。確か、確か、彼は?彼が私に微笑みかけた。
ハッと目を覚ますと、先程の景色が夢だった事を証明しうる二つの花が私を覗く。
「「眠った?」」
顔に落とす明らかな花弁の影。
そう、夢のようで夢ではない。
私は観念したのだ。
「また、私は気絶したのね…。」
「違うよ。貴女は巡っているんだ。」
「違うよ。貴方は還っているんだ。」
「「思い出した?」」
「分かった。その話し方気に触る。」
寝起きで聞かされるお喋りな少年達の声はカンパニュラの様に耳障りを起こす。
遠回りな言い方に目覚めの脳は
右手を緩く握り、額の上に乗せる。
ハァと大きなため息を空中に吐き捨てて上半身を起こした。
ここはあの御都合花屋敷では無い様だ。
「リンカ、朝顔が咲いてるよ」
「リンカ、夕顔が咲きそうだよ」
「うん…そうだね。」
ベッドの側にある窓の外を覗く姿は、まるで"少年"そのものだ。
その微笑ましい光景に寄っていた眉間の皺が緩む。
「「御飯にしよう」」
ポプラの薫りが漂う空間をかき消すようにテーブルの上では肉が焦げた匂いが覆う。
「見事に焦がしたね」
目の前の二体はナイフとフォークを構えたまま微動だにしない。
どうやら彼等なりに傷心している様だ。
彼らを目前にして手前のベーコンを口にする。
すると彼等は顔をゆるりと上げ、じいと見つめて来た。
そして同時にフォークを肉にじくりと突き立てる。
ブツブツと筋が切れ身が裂ける。
その様、ゆっくりと脳に焼き付いた。
…?あれ…?ふと疑問が浮かぶ。
口という概念はどうなっているのだろうか…?
彼等が口に運ぶ様を呆けて見つめていると、此方に気が付いたのか手を止めた。
「青の僕は"Mislukt werkt"」
「白の俺は"Defect artikel"」
失敗作と欠陥品。口にするこそ愚作である…。
「じゃあ、ワークとアーティだね」
「僕ワーク」
「俺アーティ」
失敗した仕事と欠陥した芸術…。言葉の意味は同じ様で比べようが無く、物は言いようだな…。
「言えなかったけど、助けてくれてありがとう」
「「愛するビーの仰せのままに」」
耳障りだった声は交わすにつれ心地が良くなって行く。
何故か故郷に帰った様な気分に陥っていた。
「それよりビー」
「そんな事よりビー」
「「賓客がいるよ」」
食べ終わった食器を重ねてナプキンで口を拭っていると、同じく食事が済んだ彼等が席を立ちながらそう告げる。
「え…?」
昨日の追っ手を警戒して訝しげに伺うリンカ。
≪彼等は手を合わす≫
"Een leider om te bevestigen. Discipelen om te vertellen. Zondebok zal het kussen nat maken. Een nacht is dageraad bij de begrafenis in de ochtendzon. Wees niet bang. Niet flauw vallen. Rood is een contra-indicatie voor wonderen"…「「確認する先導者。告げる弟子。スケープゴートは枕を濡らす。朝日の葬儀に夜が明ける。畏れるな。たじろぐな。奇跡に赤は禁忌なり」」
「「聖声"扉の平等への隔てり"」」
<イザヤ書41章10節より>から引用
ふと違和感を感じ辺りを見渡す。
閉塞感を感じさせないこの広々とした空間…窓はあれど、1つも扉と言えるものが無い。
彼等はそんなリンカを他所に両手を絡ませ、祈る様に
すると彼等の花粉は舞い、淡黄色の風が縁を空間に形作る。
それは初めからそこにある様に錯覚させながら、花粉の付着により扉が朧気に確認出来るようになる。
アーティの青が
食骨花の裏言葉 サキヨ @nyagumo
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