第4話 今後の異世界予報についてお伝えします
異世界予報が異世界の接近を予報しなくなって二ヶ月が経過した。
少なくとも月に2度は異世界と重なるのが常であったため、こちらの世界には動揺が広がっている。
会えない家族も、恋人も、連絡を取る手段さえ無い。
それでも日常はゆるゆると過ぎて、盛夏をこえてゆるやかに秋へと向かっていく。
世界は何を決めたのだろう。どうして異世界同士が繋がり、重なり、離れていくことを繰り返していたのだろう。
「異世界予報を発表します」
朝のニュースで繰り返される、今週の異世界予報。
さらさらと耳障りの良い声で流れるニュースの声色は変わらない。
「異世界予報についてお伝えします。今後の異世界予報を一時中止といたします」
ぱ、と母親の視線が弾くようにテレビに向く。
「今後の情報に注意してください」
唐突に変わっていく、いや、戻って行く世界。
「お母さん」
朔の声が、
「お母さん?」
朔の声も、
消えて行く。
こちらの世界と青の世界、二つの世界の親をルーツに持つ子どもの存在が消えて行く。
最初から無かったかのように。
動揺は少なかった。何故消えてしまうのかは分からなかったが、存在がどんどん希薄になるのが自分でも分かった。
ただ青の世界にもう一度行きたいと、父親にもう一度会いたいと……。
こつんと朔の眼鏡が落ちる。
こつんと朔の眼鏡が落ちる。
雨の降る青の世界、建物に植物が這い、蔓が絡まって上へ上へと伸びて集まって花が舞い落ちる花が舞い落ちてそこへ、
「朔」
眼鏡だけが、朔の父親の足元に落ちた。
「異世界予報をお伝えします」
ノイズとともに、放送が流れる。
「異世界の切り離しが行われました」
「今後領土資源を侵略されることはなくなり」
「我々の土地は我々の」
放送が流れる。
朔の父親は眼鏡を、踏んで踏み潰して
拾って、
泣いた。
誰かが画策し、誰かが元に戻した。
誰かが喝采され、誰かが失墜し、そして誰かが英雄となった。
緩やかに重なり、そして切り離された世界に住んでいたなんでもない人たちの、話。
昨日の明日は晴れのち、異世界 花ほたる @kagimori123
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