第10話 シュ○インズゲートの選択

「それは、どういう意味ですか……?」


 ゲームオーバー……言葉の意味からして、嫌な予感がしてなりません。

 後ろを振り返ると、そこには神様の姿がありました。

 体感時間で、だいたい四年半ぶりの再会です。


「もう、お前さんがあの世界に行くことはない」


 無慈悲なその宣告に、私は食ってかかるようにして反論をしました。


「そんなっ! だってまだ、最後のテストが残って……!」

「テストは、ない」

「そんなはずがありません! まだ三学期最後のテストが残っているはずです!」


 私の言葉に、神様は首を横に振りました。


「そこが勘違いじゃ」

「え……」

「高校三年生の三学期は、自主登校じゃ」


 この時期の生徒は、大きく分けて二つに分類されます。

 進学が内定してる生徒と、してない生徒です。

 就職という選択肢を選んだ生徒ももちろんいますが、ここでは置いておきましょう。


 進学が決まった生徒は、残りの三学期を自由に謳歌します。

 対して、進学の決まっていない生徒は、二月にある一般入試の結果が出るまで進路が決まりません。

 それまでは受験勉強はもちろんのこと、願書の提出、面接の練習、小論文の書き方など、詰め込むことがたくさん残ってます。

 受験先が私立なら、入試日だってバラバラです。

 学校もそうした背景を考慮して、三年生の三学期は自主登校にしているのです。

 そのことを神様に指摘されて、私の心を絶望が占めていきます。


「あ、あああぁぁ……!」


 自主登校ということは、今までのような授業がありません。

 そうなれば、当然テストもありません。。

 つまり、私が上位一割を取る機会はもう……。


「ぁぁぁ……ッ……!」


 ……嫌だ、そんなことが許されるはずがない……ッ!

 私はもう一度あの世界に行って、卒業式を迎えなければならないんです……!

 彼が……キルト様が、私を待っているのです……っ!


「お、お願いします! チャンスを……! 私にチャンスを下さい……!」

「…………」

「お願いします! 神様ッッ!」


 みっともなく泣きながら、それでも神様に懇願します。

 恥も外聞もありません。

 どんな惨めな姿だろうと、絶対に諦めたくありませんでした。


「ハァー……」


 神様が深いため息を吐きます。


「ワシもつくづく、泣いてる女の子に甘いのぉ……」


 神様はそう言って、私に最後のチャンスを与えてくれました。

 泣いても笑ってもこれが本当に最後じゃぞ、と言い残して。


--


 二月の某日。

 私はとある大学の正門前に来ていました。

 今日、合格発表が行われるのです。


 神様から言い渡された最後のチャンスは、大学の入試に合格すること。

 それも、私が以前適当に先生へ言った、あの有名な難関大学でした。

 さすがに都内の有名大学だけあって、新聞に公開されていた倍率も凄まじかったです。


 入試内容も学力テストだけではなく、面接などの素行チェックが入ります。

 メイアとして公爵家の令嬢を演じていたこともあり、無難にこなせたと思うのですが、完全な正解がないだけに多少の不安が残ります。

 それを言ったら筆記試験だって、学校のテストとは比べるまでもなくハイレベルだったので、不安ではありますが。


 ……と、私の見ている風景が止まりました。

 直感的に、世界の時間が止まったのだと理解します。

 この日、この瞬間に、こんな事が出来る人物に、私は一人しか心当たりがありません。


「心の準備はよいか?」


 いつの間にか、目の前に神様が現れました。

 私は神様の問いかけに、シッカリと頷きます。


「泣いても笑っても、これが最後じゃぞ?」

「はい」

「本当にわかっておろうな?」

「はい」

「受かってたとして、この世界に未練はないか?」

「ありません」

「受かってなかったとして、この世界で全力を出して生きていけると誓えるか?」

「……善処します」

「まあ、よいじゃろう」


 風景が動き出しました。

 それと同時に、神様の姿が霞のように消えてなくなります。


 ――大丈夫、今まで以上に頑張ってきたんだから!


 だから受からないはずがありません。

 先生だって、今の私ならどこでも受かるって言ってたんだから!

 そう自分を鼓舞して、合格発表を見に歩きだしたのですが……ふと、私は立ち止まり、コートのポケットからスマートフォンを取り出しました。

 画面のロックを解除して『ボクとキミ』のアプリをタップします。


『よお、メイア』


 あの俺様系王子が、画面に映りました。

 なんとなく……一緒に受験結果を見届けてほしいと思ったのです。

 結果は変わらないのにね。


 フフッと、笑みがこぼれました。

 画面の中のキルト様は、俺様系の彼らしい、不遜な態度を取っています。

 それがなんだか、私の受験結果をすでに見通し、余裕な態度を取ってるように思えて心強い気持ちになりました。


「さて、結果を見に行きますか」


 今度こそ、私は歩き出しました。



 Fin.

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