DIARY〜君の知らない1年間〜

真野たがくに

第1話

12月30日

「大掃除してみよっか」

唐突な彼女の一言から大掃除が始まった。


始めてから30分、ほとんど何も進んでいない。というより、始める前よりひどい光景が目に入ってくる。

まぁ仕方のないことだろう。

この家に住み始めてから10年。普段から綺麗にしているつもりではあるが、ここ5年ほどは『大掃除』なるものはしていない。いや、『できなかった』と言う方が正しいか。

ここ5年は人生で2番目に忙しかったと言っても過言ではない。5年前に会社の社長が亡くなり、2度ほど倒産しかけた。義母が倒れ1年程の入院。そして義弟の事故死。そんな中でも子供はスクスクと成長して、上の子は小学校、中学校を卒業し今年から高校に通っている。下の坊主は中学3年で受験勉強に励んでいる。今でこそ落ち着いたが去年の反抗期は辛かった。何度家族会議を開いたことか思い出したくもない。会社の倒産危機に受験勉強、2人合わせて3回の卒業に3回の入学、そして身内の不幸。この5年間で一生分の苦労を経験した気がする。この先流石にこれ程の経験はしないだろう。

本当にこの5年よく乗り切ったな。久しぶりに自分を褒めてやりたくなった。まぁ感傷に浸るのは明日にしよう。ひとまず掃除を再開しようか。



今朝、彼女が

「今年の汚れは今年の内に落とさないとね!」

などと言っていたが、今年の汚れどころではない。5年分だ。今年の汚れだけだったらどんなに楽だったことか。5年もあれば物は増える。いつどこでどのような目的で買ったのか分からないもの、はたまた初めて目にするような物まで数えきれない程物が出てくる。1つ1つは小さかったりするものの、なにしろ数が凶悪である。

これが5年の重みか、まさに塵も積もればってやつだな。


一通り倉庫の整理が終わり自分の部屋を掃除していると、押入れの奥の十数冊ものノートの束が目に入った。ノートに統一性はなく、普通の30ページのノートから100ページはあろうかと思えるほど分厚いノートもある。それらにただ1つ共通していることがあるとすれば、どれもがボロボロで、背表紙が無くホッチキスの針もしくは紐で留められている物もある。

1番上の赤い表紙のノートを手に取ってみる。

──high school diary No6──

なんの捻りもない題名の通り、俺が高校生の頃に付けていた日記である。ここには当時高校2年の俺の身に起きた1年間の不思議な体験が全て綴られている。楽しい記憶も、悲しい記憶も。このノートを見れば全て思い出すことができるだろう。


無意識のうちにノートを開いて眺めている自分がいる。そんなことをしている暇はないと理解していながらも、身体がノートを閉じようとしない。いや、実際は閉じることはできるのだろう。しかし、他ならぬ俺自身がそれを拒んでいるのがわかる。あの忘れもしない特別な1年間。思い返すとあれから25年は経っている。あの頃の記憶のせいなのか、いつの間にか俺は日記を読むことに夢中になっていた。

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