言ってしまえば少女がマニキュアを塗って学校に行くことを先生や母親にたしなめられる話なのですが、彼女がそうした理由が、心の変遷がとても丁寧に表現されていて、ああ、私にもかつてこんな時代があったのだ、ということを思い出させるのです。ただただ純粋な感情。思春期の少女の。そこには強弱や濃淡はなく、無垢で、真っ白で、だからこそ肉色のピンクのマニキュアや真っ黒で主張の激しいマニキュアの色が映えるのだと感じました。
断っておきますが、私はごくふつうの男性です。それなのに、先生に対する主人公の気持ちが、分かりすぎるほど、分かる。胸が締め付けられる。タグには「百合」と書かれていたが、それを聞いて想像するようなもんじゃない。たぶん、これは、もっと、純粋な。もっと、はじめの気持ち。俺は感じていないだけで、多分、毎日、俺にも訪れているはず。だいっ嫌いな奴ほど、認められたいのかも。大好きな奴なら、尚更。自分と、相手の間を隔てるものを作ろうとする相手が、勝手に施いちゃう壁をぶち壊す物語。
当たり前の話なんですけど、男が女性視点で物を書くとなんだか嘘っぽくなっちゃうんですよね。かの太宰治氏は女性視点で書くのが上手いと言われていますが、それでもやっぱり本物にはかなわない気がします。微妙な心の揺れ動きを描いた本作。先生や友達との距離感や言葉の選択。独特な表現も相まって、見事に「女の子」を表現していました。