僕はエクスカリバーの数だけ強くなる3
勝てた試合だった。ユニットの配置にもう少し神経を使っていれば、結果は変わっていたかもしれない。一戦目の時点で盾兵の重要性に気づいていたのだから、それを念頭に戦略を立てるべきだった。
これ以上の負けは許されない。宿泊施設に泊まらないと翌日の支給が半分になるので、手持ちのカードの大半をポイント化して、最安のカプセルホテルへ向かった。
身軽になった。手持ち無沙汰になった。始めはお荷物でしかなかったエクスカリバーはもう僕の右手にいない。喪失感を抱きながら、狭いカプセル内に
「すいません。僕が不甲斐ないばかりに大事なエクスカリバーを……」
「気を落とさなくていいにゃご。エクスカリバーはまた作ればいいにゃご」
「あのエクスカリバーの代わりなんてありません。ここへ来る前は勇者として戦う夢を見させてくれて、ここに着いてからもずっと傍らに付き添ってくれた。
それなのに能力の高さに目がくらんでカード化した。
自分が許せません。エクスカリバーに合わせる顔がありません」
「金属のかたまりにそこまで感情移入するにゃご!?」
右手に残る友の感触を思い起こしながら、僕は忍び泣いた。
「今はゆっくり休むにゃご。一晩寝れば、きれいさっぱり忘れているにゃご」
ニャゴ様の優しさが身にしみた。だけど、その言葉を受け入れる気になれない。
「忘れませんよ。あの〈エクスカリバー〉は必ず取り戻します。もう一度この手にするその時まで、絶対に忘れません」
◇
事前の約束通り、目が覚めると現実に戻ってこれた。ただ、心にはポッカリと穴が空いたままだった。傍らに寝転がっていたニャゴ様がムクリと起き上がり、窓枠へ跳び乗った。
「今晩、また来るにゃご。こっちと向こうでは別腹にゃご。その時までにウエットなキャットフードを用意しとくにゃご。ドライのを買ってきたら容赦しないにゃご」
相変わらず、ニャゴ様の言動は清々しいほどストレートで屈託がない。
「あと、シーツがちょっと汚れているにゃご。二週間に一度は洗うようにするにゃご。ニャゴはいつもそうしてるにゃご」
そういえば、ニャゴ様は向こうで何をしていたっけ。記憶をたどっていると、一層エクスカリバーが恋しくなった。
「向こうに持って行きたい物で何かリクエストはあるにゃご?」
「それじゃあ、新しいエクスカリバーとカードゲームに詳しい神のエージェントをお願いします」
「……善処するにゃご」
ニャゴ様は寂しげな背中を見せながら、窓から部屋を後にした。
言い過ぎたと反省した。その日は罪悪感に包まれていたけど、結局、その晩もシレッとした顔でニャゴ様が現れた。今日もエクスカリバー(偽)をくわえて。
「昨日のエクスカリバー(真)と全く同じ物にゃご」
「違いますよ。これは昨日のエクスカリバー(真)ではありません」
「同じにゃご。寸分違わず、同質の物を作ったにゃご」
「これには僕の思いがこもっていません」
「……もう傷はえぐらないにゃご」
ニャゴ様には強気で当たったほうが折り合えるのかもしれない。でも、そんなことはどうでもいい。日中もエクスカリバー(真)をどうやって取り戻すか、高校の授業そっちのけで頭をフル回転させていた。
新たな陣形を編み出すぐらいの意気込みで、ノート上で様々なシミュレーションを行ったりもした。
「エクスカリバー(偽)の量産は可能ですか?」
「うちにも予算があるから、量産は難しいにゃご」
「予算の範囲内で構いません。できる限りの数をお願いします」
「善処するにゃご」
「あっ、オーダメイドじゃなくてもいいですよ。すぐにカード化しますので」
就寝の準備を始める。まだ眠るのには早い時間だったけど、すぐにでも裏の世界に駆けつけたかった。大男が中級に昇級したことを考えれば、一刻も早く後を追いかけなければならない。
「今日のプランはもう考えてあるにゃご?」
「はい。〈エクスカリバー〉単体では本領を発揮できず、昨日のように足をすくわれるかもしれません。なので、これは即座にポイント化して身の丈にあったアイテムを買い集めようと思います」
「……そのエクスカリバー(偽)に未練はないにゃご?」
「
それはそれ、これはこれ。物事にはメリハリが必要だ。
「一つだけ確かめておきたいにゃご。ニャゴとエクスカリバー(真)、どちらかを選べと言われたら、どちらを選ぶにゃご?」
「どちらかだなんて選べないですよ。どちらもかけがえのない仲間です」
「……同レベルってことにゃご?」
「安心してください。僕が冥王のことを忘れていると思ったのかもしれませんが、大丈夫です。しっかり覚えていますよ。冥王もきっとこの手で倒してみせます。ただ――、その時はエクスカリバー(真)も一緒です」
エクスカリバー(真)――君はその身をもって教えてくれた。僕の未熟さとカードデュエルの奥深さを。だから、今度は僕が恩返しをする番だ。たくましくなった僕の顔を、いつかきっと君に見せよう。
「さあ、行きましょう。いつまでも初級ラウンジで足踏みしてるわけにはいきません。さっさと、あの大男に一泡吹かせてやらないといけませんから」
「やる気を出してくれてることだけはうれしいにゃご」
悲壮な決意を胸に抱き、ベッドに寝転んだ。エクスカリバー(真)を取り戻す戦いが――カードデュエラーとしての第二章が今始まりを告げた。
僕はエクスカリバーの数だけ強くなる mysh @mysh
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