コメディーメリートゥデー

──


────


一つの後日談で懐古を締め括り、思考を直面している現在に戻すなら、諸行無常を感じた翌年──私はそれでもやっぱり諦めたくなくて、雪の積もった日にゆきんこちゃんをもう一度作ろうと試みた。


それは伝えられなかったさようならを言いたかったとか、また遊びたかったからとか、そんな潔白の心故ではない。


かじかんでいく手を夢中に動かしたのはただ、認めたくない世界の理に抵抗したかったから。だけど────。


完成した雪だるまは、どう見ようとも。どう似せようとも。決してゆきんこちゃんではなかった。ゆきんこちゃんであってほしいのに、"違う"、と──私の中の私がその存在を否定し続けたのだ。


そして……いつを最後にしたか。私はついに雪だるまを作らなくなった。そういえばそんな私に合わせたかのように、あの年から今日までずっと、どこか物悲しいグリーンクリスマスが続いていたように思う。



──だから今年は、ほんの少し特別だ。携帯に流れてくる天気予報いわく、この雪、明日には十中八九積もっているらしい。最低限、雪だるまを作れるくらいには。


「……」


暫し、ホワイトクリスマスに湧く街と人々を上から見下ろし笑ってみる。できるだけ純粋に。可能な限り潔白であるように。


そして誰もいない真っ暗なオフィスで一人クスリと声を漏らしてから、私は華やかなイルミネーションに背を向け帰路についた。


途中、溜めていたメールに返信を打つ。



『ありがとうって言った数ありがとうって言わせなきゃ、そのうち感謝が謝罪にしかならなくなるのだぜ』。



絵文字は──使わなかった。



──私は今日まで生きてきて、いったいどれだけのことを変えてきたのだろう? あるいは、変えてしまったのだろう?


良くも悪くも、ここにいる私とあの頃の私は違っている。


だからこそ、少しだけ時間を止めてみたかった。


例えば少女のようになにかを夢中で行えば。過去でも未来でもなく瞬間を生きられれば。人生という果てしなく長い時の流れ──その甚だ短い刹那くらい、今の私にも止められるだろうか? もしそうだと……いいな。


純情の魔法がまだ使えるなら、明日────久しぶりに作ってみるのも悪くない。そのためであれば、仕事も早く終わらせられる気がする。




繁華街から逃げても未だ四方を流れていく喧騒。世界を雪白が飾る。今年の冬は特に寒い。裸の手がちょっぴり霜焼けた。なぜだか不思議と嬉しかった。



もし明日が特別な日になるならば、きっと今日もまた特別になるのだろう。


コメディーメリートゥデー。今日の喜びを祝える明日がほしい。




――

――――


なかなかに絶景────雪景色。朝焼けに照らされて微笑む滑稽な造形の友達と一緒に、私もたぶん、笑っていた。







──────Fin──────

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溶けた雪だるまと霜焼けた雪白 零真似 @romanizero

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