第4話 サトル君は異世界に興味がない
◆
僕には友達がいません。
それでも小さい頃は仲良くなった子ががいて、よく家の庭で遊んでいました。
しかし、その子と遊ぶ姿を見て両親は
なぜか気味悪がりました。
やめろというんです。
僕には何のことかわかりませんでしたが、両親がそう言うのです。その子にはもう遊べないと言いました。
小学校に入学し、僕はまたきっと友達ができると期待を膨らませて登校しました。入学式の次の日です。
何人かがグループになって楽しそうに話していました。僕は緊張してその輪に入れません。ふと、教室の隅にぽつんとしている子を見つけました。
思い切って話しかけたんです。
その子は驚いた様子で逃げて行ってしまいました。
その時でした。
「何だあいつ!きもちわりぃー!!」
クラスの男の子がそう言って僕を指差しました。
それから僕はずっと1人でした。
何となくわかってきました。僕は人に見えないものが見えるのかもしれない。
それからは、目の前にいるのが人か人じゃないか気にするようになりました。でも、それでも僕にはわからなかった。
見分けられないんです。
どんなに注意を払っても、どんなに目を凝らしてもわからない。
高校に上がるとき、両親は僕を祖父母へ預けました。
高校でも昔とあんまり変わってません。たまに何もない場所に向かって話してるヤバイ奴扱いです。
前のバイト先ではそれで先輩に目をつけられてしまいました。無茶ぶりとか、先輩の仕事を代わりに残業させられたりが当たり前でした。
僕は誰からも距離を置かれる人間なんです。
◆
「次こそは。ずっと思ってきました。次こそは。次こそは。って」
「どうして」
俺は立ち止まって振り返り、サトル君をみた。サトル君は俯いたまま足を止めた。
「次こそは。って思えるの?」
「預けられた日の夜、祖父に言われました。
『お前が嫌われたんじゃない。悪いんでもない。クラスの子達はわからないことが怖いんだ。それだけだ。中身を見てもいないのにな。
お前という人間を見て、中身を見て、好きになってくれる人はきっといる。私もおばあさんも素直で優しいお前が大好きだ。
だからお前は、その時まで気長に頑張るといいさ。
こんなに素直で優しい子に育ってくれた。サトルはずっと、私達の自慢の孫だ。』と。
僕も誰かと関わりたい。仲良くなって、笑いあいたい。僕がいて、君がいて良かったと思う誰かに出会いたい。
祖父の言葉があったから、僕は関わることを諦めたくなかった。
何事もやってみないとわからない。そう思って。
あいさつは必ずしたし、道で困ってそうな人を見たら声をかけた。驚かれることがほとんどだったけど、そうじゃない時もあった。」
サトル君が顔を上げた。
「初めてだったんです。
僕をみて怖がらないでくれた人達は。
僕に笑いかけてくれた人達は。
僕を、普通の人と変わらず接してくれた人達は。」
サトル君は続けた。
「チキやリキが何なのか、常夜が何なのか、二人やぬらりひょんのおじいさんに聞きました。でも、怖いとは思いません。
みんな僕を歓迎してくれた。人間がきたって、喜んでくれた。だから、大丈夫です。
でも、仕事中に抜け出すなんてやってはいけないことでした。
本当にすみませんでした。」
サトル君はまた頭を下げた。
そうか。
そうなのか。
サトル君は変わってると思ってた。
違う。
関係ないんだ。
現世も常夜も。人間も妖も。
サトル君にとっては同じなんだ。
人の世を、人が人と関わるが故に放つ様々な感情を、妖は羨むように眺める。妖は人が好きなのだ。そして人も人が好きなのだ。
サトル君も、他の人間も妖も変わらない。
繋がりたいのだ。誰かと。自分も。
「おんなじだ」
独り言のようにぽろりと口からこぼれた。
「帰ろう」
サトル君を真ん中に、3人並んで光の道を歩いた。
「あの」
店に帰って来て、奥の机で事務仕事をしていると、着替えを済ませたサトル君に声を掛けられた。
「今日はありがとう。大変だったろうに、あいつらは人間の遊びが好きだから。」
「いえ、僕の方こそ勝手な行動をしたのに、迎えに来ていただいてありがとうございました。
それで、その……」
「サトル君、これ、貰っていい?」
俺はずっとポケットに入れていた、くしゃくしゃの書類をサトル君に見せた。
サトル君の履歴書。
「……はい!」
いい返事。でも…
「……あのさ、サトル君最初何かあったら労基に行くっていってたけど、本気?」
「あぁ、あれは…すみません。前のバイトで不当な扱いを受けたのでかなり勉強したんです。
おかげで先輩はクビになって、未払いの残業代ももらえたし。社員さんは上の上司に土下座してましたよ。あはは。
新しいバイト先では舐められないようにと思って……あんなことを。」
「あは…あはは。」
……やっぱちょっと怖いかも。とりあえず笑っとこう。
「お疲れ様。来週もよろしくね」
「はい!お疲れ様でした!」
こうして僕の店に新しいバイトが入った。
二藤サトル君。高校二年生。
結構しっかりしている。素直で優しい。ちょっと怖い。
サトル君は異世界に興味がない。
第1章 完
サトル君は異世界に興味がない @muuko
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