見せてやる、これが本当のプロ人質の仕事だ！！

人質株式会社には失敗がない

「君はどうしてこの会社を選んだのかね？」

「はい！　御社の企業理念に共感いたしました！！」

親の顔よりみたテンプレ回答にうんざりする。

「ちなみに、君はうちの会社の仕事の内容を知っていますか？」

「えっと……」

「うちは、人質をやってるんですよ。簡単な仕事じゃない。

　それすら知らない人を採用するわけにいかないんです。次」

高い給料に誘われて押し寄せる就職希望者。

でも、人質株式会社という特殊な仕事を理解している人は少ない。

「はぁ……今回も収穫無しかなぁ……」

次の希望者が入って来た。

人質にぴったりの没個性的な顔立ちに才能を感じる。

「君はどうしてこの会社を選んだのかね？」

「はい。この国は今やいつ人質事件が起きても不思議ではない限界状態。

　体力のない高齢者や女性、子供にかわって人質になれれば

　それがなによりの人助けになると信じているからです！！」

「ほぅ」

これは見どころがありそうな新人だ。

人質の資質があるのかさらに聞いてみることに。

「いいかい、人質というのは楽な仕事じゃない。

　犯人は自分の身を守るのに必死で食事も満足に与えられないまま

　人質を続けることもあるんだよ」

「はい、大丈夫です。学生時代は山岳部に入っていて

　食事がないまま山を登ったりと極限状態には慣れています」

なかなかの切り返しに好感度があがる。

「でも、人質はそれだけじゃダメなんだ。

　あくまでも犯人逮捕に協力するという側面も持たないとね。

　まったく面識のない犯人に心を開かせられるコミュニケーション能力は？」

「大丈夫です。友達１００人できるかな、を実際にやってみて

　今は友達１万人できました」

「すごいな！？」

歯切れのいい言葉と人を引き寄せる笑顔。

これに心を開かない人間はいない。俺自身も心を開きそうだ。

「よし！！　キミを採用する！　人質株式会社へようこそ！！」

「ありがとうございます！！」

期待の大型新人を採用した。

その日から仕事をはじめるため話を始めた。

「晴れて採用されたわけだけど、人質事件が出ない限り本格的な仕事はない。

　まぁまずは会社のトイレの位置でも覚えて……」

『人質事件が発生しました！！　人質交換に向かってください！！』

「……とか言ってる間に、人質事件ですよ。

　会社員の辛い所ねコレ」

「はぁ」

先輩風をぞんぶんにふかして新人を連れて現場に向かう。

現場では外から様子がうかがえない場所に立てこもった犯人と警察とがにらみあっている。

「あ、あの！　いきなり僕がやるんですか！？

　その……まだ心の準備が……」

「そんなわけないだろう。人質は人命救助もかねているんだ、失敗は許されない」

俺はかっこよくジャケットをマントのようにバサッと肩にかける。

「俺　が　や　る」

決まった……！

「頑張ってください……！」

「まぁ先輩の背中を見て勉強しな。人質のなんたるかを見せてやる。

　俺たちはぜったいに失敗しちゃいけないんだ」

悠然と犯人が立てこもる場所へと向かう。

新人の熱い視線を背中に感じながら……。

「君が人質かい？」

「ああ……あんたは？」

「人質株式会社のものだ。人質交換にやってきた」

「あぁ待っていた」

「フッ……。人質株式会社は頼まれなくても現場に来て

　人質の身代わりになるのが仕事だからね。

　そして、絶対に失敗は許されない」

新人も見ているし。

「それじゃ、人質を頼んだ」

「まかせな。これでもプロだ」

人質交換が終わって数時間の人質をしたのち、事件は収束した。

新人教育にはちょうどいい事件だったと思う。

俺はかっこよくネクタイをゆるめ、新人のもとへと歩いてきた。

「これがプロの人質だ。わかったか？」

「あんまり参考になりませんでした……」

「フッ、しょうがないさ。絶対に失敗できない仕事だから

　どうしても技術は専門的になるからな。

　まぁこれから俺の仕事ぶりを見ながら覚えて行けばいいさ」

「いえ、そうではなく……」

新人はおずおずと言葉をつづけた。

「先輩が人質と思っていた人、あれ犯人だったんですよ」

犯人の逃走を手助けした人質として俺はその後こっぴどく叱られた。