赤い長靴

MiYA

第1話

私の地元は、自然しかないような北海道の田舎で、その頃は家族で町営の住宅に住んでいました。

住宅は小高い坂の上に建ち、正面の窓からは坂を下った先に湖、居間側の窓からは山が見えて、景色を眺めるには最高の立地でした。住宅の裏に小さな公園があり、私が子供の頃は、その先にある山へ 、入って行く事も出来ました。


私は、保育園に行ける年の入園前に水疱瘡にかかってしまい、入園を1年遅らせる事になってしまったのですが、水疱瘡を1年患う訳もなく、子供なので元気になると外で遊びたくもなり、よく裏の公園で1人遊びをしていました。

勿論、母は時間を置いて見に来ていましたし、バルコニーから公園が見えるので、今の時代程、心配ではなかったとは思います。


1人でブランコを占領出来る事は 、子供の私にとって心が満たされる遊びだったようで、とても誇らしく思っていた事を、よく覚えています。


今では、笑ってしまいますが。


雨の日以外は、毎日公園で遊んでいた私なのですが、ある日、滑り台の降り口にある砂場で遊んでいた時の事、私の背後から…


「ねぇ…」


女の子の声が聞こえたので振り返ると、私と同じ年頃の女の子が立 っていました。


女の子は、白く透けるような肌で 、胸元にフリルのついた白いワンピースを着て、晴れているのに、赤い長靴を履いていると言う奇妙な姿で立っていたのですが、子供の頃の私は、然程、気にしなかったようで


「何?」


私は砂の山作りに夢中で、ニコリともせず返事をした事を、今でもハッキリ覚えています。

恥ずかしい話しですが…


その赤い長靴の女の子は、その日は帰ってしまったのか、砂の山が完成する頃、公園に姿はありませんでした。


翌日も公園に行き、遊んでいると 、赤い長靴の女の子が現れて


「一緒に遊ぼう…」


そう言われたので、一緒に遊びました。


唯、遊具では遊ばずベンチに座って、お喋りしていたと思います、内容は覚えてないのですが、彼女の名前は美香ちゃん、それと、お喋りがとても楽しかった事だけは覚えています。美香ちゃんが笑わせてくれたのですが、内容が…子供の頃からですが、思い出せなくて、すいません…


そうして、美香ちゃんと遊ぶようになったのですが、私の母は昼ご飯が出来たよとか、おやつの時間でしょと迎えに来るのですが、美香ちゃんは誰も迎えに来ないので 、何か変だなと思っていました。


美香ちゃんと遊ぶようなって5日目の朝、公園に遊びに行こうとする私に、母が


「みゆき、昨日ベンチで誰と話していたの?」


私は当然


「美香ちゃん」


答えました。すると母が


「美香ちゃん?みゆき1人だったでしょ?」


私は首を横に振り


「美香ちゃんとお喋りしてた!」


解ってくれない母に何故かイライラして 、家を飛び出して公園へ行ったのです。


公園に着くと、美香ちゃんは山側の公園の入り口から、私に手招きをして


「みゆきちゃん、こっち…」


普段から母に山へ入ってはいけないとキツク言われていて、約束を破った事もなかったのですが、その時は、行かなきゃ!と思ってしまって… 美香ちゃんの後を歩いて山へ入ったのです。


美香ちゃんは歩くのが速くて、私は小走りをしたのですが、美香ち ゃんとの距離が全然縮まらなくて 、それでも何故か必死に追いかけていました。


「美香ちゃん待って~」


何度も声にしたのですが、美香ちゃんは足を止めてはくれませんでした。


私は子供だったからだと思いますが、山の中はとても不気味で、怖くて怖くて泣きだしたのですが、それでも、美香ちゃんは足を止めてはくれず、私は泣きながら、美香ちゃんを追っていました。


何れくらい走り、何れくらい歩いたのか定かではありませんが…


道が開け沼がありました。


美香ちゃんは沼の前で足を止めました。


私がヒクヒク泣きながら着くと、

美香ちゃんはゆっくり振り返りました。


「嫌っ!」


私は思わず叫びました。

美香ちゃんの顔はドロッと溶けたように肉が半分落ちて、骨が見えて、私は怖くて怖くて震えました


美香ちゃんは私に


「みゆきちゃん…遊ぼう … 」


そんな姿でそう言われ、私は怖くて逃げようとしても、その時躰が動かなくて、意識が無くなり、その場に倒れてしまいました。


気がつくと、私は病院でした…


母の話しでは、私は子供の足で6時間は掛かるだろうと言われる程 、山奥にある沼の前で倒れていたのを探しに来た大人達に発見され 病院に運ばれました。

原因不明の高熱が3日続き、


「覚悟をして下さい …」


両親は医師にそう言われたそうです。


私は元気になってから、母に何度も何故山へ行ったのかと聞かれましたが…


子供ながらに怖くて、思い出すのも嫌で、随分後になってから、美香ちゃんとの出会いから、全てを話しました。


すると母の顔が青覚め


「… みゆきが見つかった時、沼の朽ち木に赤い長靴が片方引っ掛かっていたんだって聞いたの、でも、みゆきは靴を両足に履いているし…みゆきのじゃないなと思ったってそう言ってたわ… 」



赤い長靴がその後どうなってしま ったのかは解りません…

でも、その赤い長靴は美香ちゃんの長靴だったと、そう思います。


今では私も両親も別の街で暮らしていますが、何十年経っても、忘れられず、時々、美香ちゃん淋しかったのかな…とも思いますが、やはり、怖くて不思議な出来事です。


沼の前で倒れていた私を、誰も見つけられなかったら …


そう思うと今でもゾッとします。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤い長靴 MiYA @2266

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ