ゼロ年代の輝きと残滓とあと何か――

この作品を正しく語る言葉を私は持ち合わせてはいません。

あえて一言で言い表すなら、

パンクロッカーは何故自分のギターを叩き壊すのか――?

そのように言えるでしょうか。どういう意味か? その答えは、作品を最後まで読み通すと見えてきます。またこの問いをある種突き詰めて考え抜いていくのが本作品の読みどころでもあるでしょう。

物語はモノローグを主体に、主人公かまちと彼を取り囲む3人の少女たちを中心に進んできます。
冒頭こそ穏やかな学園ハーレムもののような雰囲気で始まるのですが、次第に不穏さが勢いを増し、やがて「メタ・美少女ゲーム」とでも呼ぶべき展開に。主人公の抱える鬱屈とした幻影が超常的な破壊となって現出し、後半は天使と悪魔の絶えなき戦いを巡る裏舞台の真実へと。終わりを迎えても終わらない物語はどこへと着地するのか――。

また、音楽と作品テーマが密接に絡み合っており、ボカロ曲からローリング・ストーンズまで具体的な楽曲がそこここに登場しています。

しかし何よりの魅力はふんだんに盛り込まれたゼロ年代的要素とその見せ方にあると言えるでしょう。

ストーリー中にも実際に該当のゲーム作品をプレイするシーンがありますが、田中ロミオ作品の系譜的な位置づけがかなり意識的かつ自己言及的に行われており、そういった意味できわめてハイコンテキストな、しかしあるジャンルに精通している読者にとっては読み取り得るフックが多分に仕掛けられている……しかしまた同時にその方面の知識や経験が乏しくともじゅうぶんに楽しめるエンターテイメント小説でもあります(かくいう私もいわゆる美少女ゲーム文化にはあまり親しみを持ってきませんでした)。

ゼロ年代サブカルチャーへ憧憬と懐旧を抱くすべてのひとに届いてほしい――そんな熱をもった作品です。

おススメです!