第6話

村さんと私はホテルにいた。並んで椅子に座って、キスをした。

ドキドキした。なんていうか、ここまであっという間だったような気もしたし、すごく長かった気もした。

こんな風になることを期待したけど、でもまさか実現するとは思っていなかった。

村さんに抱かれる。嬉しい。嬉しい? 嬉しいのかな。喜びたい自分がいて、でも、喜べない自分がいる。

ここまで来たけれど、私はまだ村さんの気持ちを聞かされていない。

聞くのが、怖い。


普通にシャワー浴びて電気を消してベッドに入ればセックスが始まる。今はその流れに身を任せようと思うのだけど、なかなか、流れが始まらない。

村さんは私に触れるのだけど、その手が、唇が、舌が、それ以上を拒んでいるようだった。

躊躇している。、戦っている。葛藤している。


ねえ、村さん。今は私と二人きりだよ。

女の子をラブホテルに連れ込んでおいて、ためらわないでよ。傷つくよ。

まあ、たしかに、村さんにしては思い切ったと思う。

ほんとに誘われるとさっきまで思ってなかった。

ねえ村さん、私今日は下着も、ムダ毛もちゃんとちゃんとしてきた。

コロンも着けてないよ。

ねえ、村さん。私のこと、どう思ってるの。。。


村さんは少しずつ、少しずつ、私の反応を確かめるように、そして、自分の罪を許してほしそうに、私の体の上へ指を這わせてきた。

迷っている。悩んでいる。

服を脱がせようともしない。

服の上から、私の身体に触れる。触れるだけだ。触ってこない。

意を決したように村さんは私をベッドに連れて行った。

ベッドに腰掛けて、あとはもう、服を脱いでセックスするだけなのに、それなのにその状況でも、迷っていた。

でも、少しずつだけど、行為は進んだ。ちょっとずつ、ちょっとずつ。

私は、その焦れったさをもどかしく感じで、ついに、聞いてしまった。


「ねえ、村さん」

「ん?な、なに?」

「どうして、私なの?」

「え?」

「他にも、たくさん女の子がいるのに。若い子もいるし、可愛い子もいるし、セクシーな子もいる。どうして、私なのかなって」


ずっと気になっていたこと。思い切って聞いてしまった


「どうして、って」

「村さんなら、他の子だってこうなれるでしょ」

「なれないよ。なれるわけ無いじゃん」

「なれるよ」

「ヨッコはどうして? どうして来てくれたの?」

「だって、村さんは仕事もできるし、私を守ってくれたし」

かっこいいし、とは言えなかった。飲み込んだ。

「俺はさ、ヨッコのこと、好きだから」

「え?」

「ダメ?」

「でも」

「ヨッコじゃないと、嫌だよ。ヨッコ以外の女の子なんて、考えられないよ」

そう言うと村さんは私に覆いかぶさってきた。私は村さんの背中に腕を回して、思い切り抱きしめた。

固いスーツの感覚だ。


そうしてようやく、私たちは洋服を脱いだ。

私は、村さんに抱かれた。

あっという間にセックスが終わった。

あれ? もう? って思った。

久しぶりにセックスをしたけど、満たされた感じがした。

燃え上がるような感情がわいてこない。私の中の自分が全力でブレーキを踏んでいる。

これ以上先に行っちゃダメと。


幸せになれない恋は、しちゃダメと。

村さんに、今以上求めちゃダメだと。できれば今のまま、このままでいたいから。


それから何回かデートをした。デートの数だけセックスをした。

何回かデートをして、そのまま、私達の関係は終わった。

そんなもんなんだな、やっぱり。って思った。

さようなら。

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OL、恋、大人 南無山 慶 @doksensei

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