親友と初陣(四)
「つまり、明、お前は敵がだれか、どこにいるかも知っていて、それを俺に教えてくれるんだな」
「ああ、その代わり、手を組むって話。簡単だろ」
「なんとなく、その、伊吹って子見てるとさ、強そうには見えないんだよな」
伊吹はムッとした表情で煎を見て、頬を膨らませて見せた。
「伊吹は恐らくいちばん弱いだろうよ。それと、いくら敵だからって、お前とは戦いたくなかったし」
「明……」
「ま、続きは俺ん家でしよう」
小早川家は地元でも有名な名主で、明はその長男であった。古くは藩専属の茶師として重宝されてきた歴史があるそうで、広い庭には椿や牡丹の木がうえられ、池には錦鯉が優雅に泳いでいる。20畳ほどもある座敷に煎と伊右衛門は招かれ、座して待っていた。
庭の木にとまる小鳥のさえずりが聴こえてくる。
「煎殿は、あの明という者の友人であるのか」
「ちいさいときからな。でも、将来こうなること、知ってたのかも」
「お待たせ」
話を遮るように障子が開く音が聞こえ、明と伊吹がゆっくりと入って来る。伊吹は手にふたつの椀を盆に乗せ、無駄のない動きで腰を下ろし、伊右衛門と煎の前にお茶を出した。
「飲んでいいの?」煎は聞いてみた。
「当たり前だろ、毒なんか入ってねーよ」
煎は苦笑いをして、お茶を飲んだ。
「本題に入ろうか。まずは煎、お前、この戦いがなんなのか理解しているか?」
「あっちの国の王様を決める戦いだろ」
「でも、なんで俺たちが選ばれた?」
「さあ?」
「あっちの国……大和の国というんだが、約236の国がある。そこから、聖なる湯飲みの意思で7人の武士が選ばれ、この世界に召喚される」
「俺たちは、ずっと、この戦いに関わってきていた。戦いに勝てば、望みを叶えられるだけでなく、彼女たちの世界について触れることで、文化を発展させてきた節もある。茶や武道が日本本来の文化だと思っていたか?実際は俺たちが彼女たちの文化に影響を受けていたのさ」明は笑って言った。
「江戸時代には、茶師たちが江戸城に招かれ、御前試合をして勝者を決めていたそうだ」
「時の副将軍様が、俺たちのご先祖様をこの町に住まわせたことが、この地で煎茶戦争が行われている理由さ」
「引っ越したりした奴はいないのかよ」
「いまのところ、確認されてない」
「ということは……」あることに気づいた煎の顔が青ざめる。
「そう、むこうもこちらの居場所を知っているってことさ」
明はそう言って、ちいさく笑った。
カテキン @Tanakakagaku
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