第6話

田下部は元々、水田のところで準構成員として住み込んでいたのだが、武政組で育てたってくれと、預かった男だった。

だからといって、裏切るようなやつではないと、木嶋は信じていた。


しかし、元々原田を面接したのは田下部であり、売り上げの金は田下部が金庫に仕舞うはずなのに、なぜ原田に持ち逃げされたのか、

仮に田下部が原田に持って逃げろとけしかけたとして、ならば原田は黙っていられるだろうか?

いや、そんな事は出来ないだろう。

つまり、田下部は原田の性格を見抜き、金庫を開け放したまま、盗むのを傍観していたに違いない。

まんまと、原田は餌に食らいつき、そして神戸に向かったのだろう。

つまり、前もっての引き抜きがあったのだ、如月会の連中に脅されたか、高額の報酬を約束されていたのか、今となっては知るよしもない。


阪神高速に乗ると、木嶋はスピードを上げた。

すると、何もかもが理解出来たというように、木嶋は笑った。

そうか、そうだったのか、一連の不可解な出来事の正体がようやくこれで分かった。

急がねばならない、オヤジの身が危険だ、木嶋はアクセルを踏む。


時間が無い、あれを追い越さなければ、俺は、終わってしまう。

俺が見た物の正体。

ちくしょう!終わってたまるか!

グングンとスピードが上がっていく。

メーターは200㎞を超え、250㎞に達しようとしていた。


目の前に黒い車が見える。


とうとう追い付いた。


横を通りすぎ、車線変更しようとした時、ハンドルロックが掛かってしまい、ベンツは横滑りをして、逆向きになって壁に激突し、また回転してゆるゆると進んでからもう一度壁にあたり、ゆっくりと止まった。


助手席はへこみ、ガラスが車内に散乱して、木嶋はエアーバックに頭を埋めていた。


ベンツの横を、黒いレクサスがゆっくりと通りすぎて行く。

少し先で止まったかとおもうと、バタン!とドアを閉める音がする。

その後も、バタン!バタン!と2つ音が聞こえてきた。


(どないや?運転手は?)

遠くから声が聞こえる。


誰か近づいて来る足音が聞こえ、木嶋の方を覗き込んでいる気配を感じ、木嶋はゆっくりとエアーバックから顔をあげて、その男を見た。


「残念やったなあ、お前はここまでやったんや」


男が驚愕の顔になり、拳銃を構えて、木嶋を撃った。


パンッ!パンッ!

と、人気のない暗闇の阪神高速に、乾いた音が2つ鳴り響いた。



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屍の夜 乱桐生 @tosajiro

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