第5話
木嶋は、何処をどう来たのか覚えていなかった。
飲酒運転のスピード違反で、銃刀法違反まで付いている。
これで捕まったのなら、一体何年の懲役を食らうのか、ましてや武政組の存続にも影響する程の馬鹿をやっているのだ。
だがしかし、後先考えて行動出来るような人間じゃない事は良くわかっていた、血が登りやすい性格だと言う事も。
《clubダークホース》の前にベンツを止めた木嶋は、路上駐車をしたまま店の中に入って行く。
「おらぁー!栗原はどこやー!」
黒服が肩を押さえて、木嶋を止めに入るが、それを押し退けてどんどん奥へと進む。
事務所の入口でタバコを吹かしているオールバックが見えた、栗原だ。
「随分荒れてますねぇ」
「信男はどこや!?」
「まぁ、ここでは店に迷惑掛かるので、中でお話ししましょう」
事務所には、小太りで首の無い、チンピラスーツを着た男と、茶髪でホスト風の優男が、立っていた。
その床に信男が猿ぐつわをされ、両腕を後ろ手に紐で縛られて、泣きじゃくっていた。
顔は青黒く腫れ上がり、目は潰れて、口元は切れて血を流していた。
「お前らぁ!信男にナニしたんじゃあ!」
木嶋が殴り掛かろうとすると、ホストがナイフをちらつかせ、信男の頬に突きつける。
「こいつ、刺しますよ?」
「なんじゃとこらっ!われぶち殺すぞ!」
木嶋はもはや呂律が回って無かった。
「まぁ、落ち着きましょうや、木嶋さん」
「お前らこんな事して、只ですむ思うなよ!」
「はは、それ俺が昨夜言った台詞じゃねえかよ」
栗原は砕けた言い方に変わっていた。
「なぁ、木嶋さんよう、よその店来て売り上げ持ってくってのはな?」
栗原は、木嶋に拳銃を向けていた。
「シマ荒らしってんだよ、わかってんのか?」
「大阪の田舎ものは、そんな事も知らねえのか?」
小太りが、せせら笑う。
木嶋は以外に冷静だった。
(たった3人、栗原は拳銃を持って強気でいるが、俺がコルトガバメントを仕込んでいるのを分かってない)
「さて、木嶋さん、金は持ってきたんだろうな?」
栗原は、拳銃を木嶋に向けたままパイプ椅子に腰かける。
「先、信男を解放せんかい!」
「てめぇ、立場わかってんのか!」
小太りが、向かってくる。
「タツ!やめろ!」
栗原が、タツと呼ばれる小太りを押さえる。
「おいっ!木嶋、てめぇ大人しく金返しやがれ!」
再び栗原は立ち上がって、銃口を向ける。
「誰から依頼された?拳竜会か?」
「はっ?てめぇが殴り込んで来たんだろうが」
「目的はなんや?」
栗原は、口元に笑みを浮かべた。
「残念ながら、てめぇは今日消されるんだよ」
小太りとホストが、クククと笑う。
「とは言っても、店の中じゃまずいから、少しドライブに付き合って貰おうか」
栗原はそう言うと、拳銃を胸のポケットに仕舞いこんだ。
木嶋は、すかさず腰のベルトに差し込んであったコルトガバメントを引き抜き、まず小太りの腹に一発、次に栗原の頭に一発見舞った。
栗原はそのままうしろに崩れ落ち、小太りも尻餅をついて、小便を垂れ流していた。
そのままホストの方に銃口を向けると、腰が抜けたのか、床にへたり込んだ。
「お前には聞きたい事がある」
木嶋はホストの両腕を後ろ手に縛ると、まず拳銃で顔面を打ち付けた。
「グワッ!」
「何が目的や!知ってる事全部言え!」
「俺は、知らねえよ」
もう一度、顔面に打ち付ける。
「グフッ!」
「誰や?誰が後ろに付いとるんや!」
「俺が知るわけねぇだろそんな事!」
木嶋は、ホストの右足のくるぶしを撃った。
「グワーー!」
最も痛みを伴う場所である。
「てめぇんところの会長だよ!」
ホストが、チクショウ、チクショウと、泣きながら言った。
「うちの会長?われ!デタラメぬかすなよ!」
「でたらめじゃねぇ!ついでに言うとな、てめぇんところの田下部ってのもグルなんだよ!」
「どういう事や!」
「てめぇんところ、組織が割れたんだろ?それで上納金が減ったにも関わらず、てめぇはキャバクラで一山当てて、なのに上納金はいつもどうりの額だってんで、面白くねぇんだろうよ」
「それで?」
「それで、帳簿預かってる田下部に、お宅の会長さんが、名義変更を依頼して、てめぇを消すよう仕向けたんだよ」
木嶋はホストの口の中に銃口を差し入れた。
「おいこらわれ!、もうちょっとましな嘘つかんかい!」そのまま引き金を引いた。
信男の紐を解いてやり、猿ぐつわを外してやる。
「カシラ、す、す、すいません、お、お、お、俺が捕まっ、捕まったばっかりに」
信男は肩を揺らせて、泣きじゃくった。
「もうえい、泣くな!」
木嶋は信男の肩に手を置いた。
「信男、さっきの話しは忘れろ、ええな?」
信男が首を縦に二回振る。
「お前は暫く四国行け、俺の知り合いのところで、匿って貰えるよう俺から言うとくから」
木嶋は、高知の(宗教法人 天元の泉)の教祖の名刺と、自分の名刺を渡した。
暴対法が強化され、名刺を持ち歩かなくなったのだが、何かのために、二枚だけ持参していたのだった。
「お、お、俺も連れて行って下さい!」
「あかん!お前は何にも知らんし、ここにも来てない!わかったか!」
信男は、泣きながら立ち上がった。
「えいか?これは電車賃や、必ず四国行けよ」信男に50万の金を渡した。
「えっ!こんなに?」
「ええから、持っとけ」
木嶋等が、事務所をでると、店内は騒然としていた。
早くこの場を立ち去らなければ。
信男をタクシーに乗せて、とにかく遠くに離れるように指示する。
サイレンの音が近づいて来た。
木嶋はベンツに乗り込み、大阪に向かって発進した。
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