なんて巧みな一人称視点…!

出会いがあれば当然、別れがある。これは何人も逃れられない事実であるが、それは出会いをプラスに、別れをマイナスに捉えた時にその二つはちょうど打ち消しあってゼロになるということである。だが、それは例えば家族のような、「出会う」よりもずっと前からそばにいた存在には、悲しいけれど適用はされない——
……と、どこかで読んだ気がするけれど、めっちゃ要約すると「家族が死んじゃうってとても悲しいよね」ってことで、ただそれだけである。「出会う」までもなく誰よりも近くにいた存在の喪失は、マイナスのままだということだ。
すごいなーと思ったのは、文体選択の上手さ。本来語り部の心情を存分に表現することに適した一人称視点の小説は、ともすればクドくなりがちであるが、この小説は一人称視点でありながらどこか語り部から離れて物語世界を俯瞰しているような、そんな印象を受けた。よく身近な人の死は実感が湧きにくいというが、まるで空中に浮遊して漂っているかのような地の文の書きぶりは、さすがとしか言えない…!

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