あなたへの物語
八坂ハジメ
2016.8
「お母さんがな、癌にかかったみたいなんよ」
海が沸騰しそうなくらい暑い高2の夏の日、僕と兄は父親からそう知らされた。この文章を書いている高3の夏から、丁度一年くらい前の話だ。
「それ、治るの?」
聞くかどうか一瞬躊躇ったが、どうせ知るなら早い方がいいと思った。むしろ知らずに悶々とする方が嫌だった。
「勿論治る!ただ、入院せなあかんことになったから2人に言っただけや」
ああ、よかった。と安堵した。
が、もし治らない状態だとして、受験を控えている兄のことを考えて言わなかったのかもしれない、と思った。
僕と兄は年子なので、当時の兄は高校生3年生。弟から見てお世辞にもメンタルが強いとは言えなかった。もしこの時期に母親が死ぬかもしれない、などと言われたら動揺で勉強に手がつかないかもしれない。
と、そんな風な考察を頭では巡らせたが、今から思えば癌患者なんてテレビでしか見たことが無かったから『まあ、きっと、よくわからないけど?治るんでしょ?』と、僕は楽観視していた。
もしこの頃に戻れるなら何だってしよう。
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