使い魔

猫田芳仁

理科室の秘蹟

 確か小学校の高学年だったと思う。

 自称「霊感のある」女の子2人と、そういうのに憧れている女の子2,3人。で、足して4,5人くらいのグループだったはずだ。

 ちなみに私は後者である。

 その顔ぶれで、放課後の理科室によく集まっていた。

 なぜ理科室だったのかは、よく覚えていない。やはり特別教室ゆえの特別感があったのだとは思う。


 そこで私たちは「使い魔」を育てていた。

 いわゆる中2病、女子で言うところの小6病である。ちょうど年齢もそのくらいだ。

 外見、能力などの設定を作って、名前も付けて、理科室で私たちはその使い魔が「いる」かのように振舞った。イタチに似ていてふわふわした小動物という設定だったと思う。霊感のある子が「今、誰それちゃんの肩に乗ってるよ」とか、「あそこの棚にいる」とか、使い魔の動きを教えてくれる。そして霊感のない子も、そういうことをずっとやっているうちに「わかる! ここにいる!」と言い出したりする。


 今思えば単なるごっこ遊びなのだが、当時は真剣にやっていた……と思う。


 いろいろあってその仲良しグループは瓦解し、霊感組は「全部嘘だった」と、使い魔の存在を全否定した。霊感ない組もあんなに大騒ぎしていたにもかかわらず「そうだとは思ってたよ」と返し、使い魔はなかったことになった。


 では、なんだったのだろう。

 理科室でしばしば、私の傍に寄り添ってきた確固たるあの気配は。

 小さくて、暖かい、あのかわいらしい気配は。

 こっくりさんのような集団ヒステリーだったのかもしれないが、あの時、確かに、「あれ」はいた。

 姿は見えなかったので、私たちの作り上げた設定とは関係のない、もとから理科室にいる存在だったのかもしれない。

 それとも「霊感のある子と一緒だと、一時的にうつる」という自己暗示からくるそれこそ妄想だったのかもしれない。

 だが、間違いなく気配はあった。


 あれはまだ母校の理科室にいるのだろうか。

 それとも、あのときの「誰か」の肩にまだのっかっているのか。

 私の肩ではなければいいなと、非情ながら、思う。

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使い魔 猫田芳仁 @CatYoshihito

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