第5話 お部屋さがしは…
「はあ~、なかなか決まらないわね。駅からもかなり歩くし。」ミヤコはため息を付きながら歩き続ける。
「でもさ、ミヤコちゃん。今日行く下見の物件は安いし、前の人が残した家具を使ってもいいし、条件がいいよ!」
タクミが不満げなミヤコを励ますように持ち上げる。
「で、さ。なんで俺達の物件探しにヒサトが付いてくるんだ?」
「悪かったな。ミヤコにカバン持ちを頼まれたんだよ。お前、物件見に行くと寝落ちするから担いでくれってさ。」
俺が答えるとタクミはばつの悪そうな顔をして謝ってきた。
「あ、悪りぃ、悪りぃ。お前にも迷惑かけてんな。なんだろなあ、すぐ寝るって
「…そんなんじゃないな。」
「なんか言ったか?ヒサト?」
「ほらほら、後ろ向いて俺とばっかり話さないで、隣の愛しい彼女に話しかけてやれ。」
タクミとミヤコはなんだかんだ交際は順調で同棲することになった。物件探しを始めたはいいが、なかなか進まないので手伝ってくれとミヤコに頼まれたのは今週に入ってからだ。
まさかと思って「あれか?ミヤコは気づいてたのか?」と尋ねたら、
「あれだけ続いているもの、気づかない方がおかしいわ。それにまあ、ちょっとわかるし。」とため息をつかれた。
それでも付き合うのか、愛ってすごいな。
今日の物件は不動産屋からカギをもらい、現地を見る方法だった。露骨に不動産屋が現地に行きたく無さそうなのが分かった時点で嫌な予感しかないが。
「家具付き、家具付き♪初期費用安上がり~♪」
タクミは能天気に妙な即席の歌を作っている。
「さ、着いた。この一階だって、ミヤコちゃん。」
って、着いたのはいいが、昭和のアパートと言った佇まい。間違っても平成も終盤に差し掛かったカップルが住むにはふさわしいとは思えない。
「タクミ、ここで間違いないのか?」
嫌な予感がますます強くなるのを感じながらタクミに聞く。
「ああ、ここで…間違…な…。」
タクミがガクンと膝をついてくずおれた。
「あちゃー、またか。」
「またみたいね、タクミ君。」
「とりあえず、担いで部屋まで行こう。」
一階の部屋なのが幸いした。どうにかタクミを肩に担いで部屋を開ける。
「うわあ…。」
ミヤコが思わず声をあげる。
「こりゃまたすごい部屋だな。」
昭和なアパート、昭和な部屋。家具はおばあちゃんが使ってたとおぼしきタンスと…。
仏 壇 が 鎮 座 し て い る。
「っつーか、普通は始末するだろ?」
「説明のコピーによればガッチリ固定されて撤去は難しい、ですって。『和風テイストなお部屋探しの方にピッタリ!』だって。」
「…物は書きようだな。」
「仏壇って前の所有者のご先祖いるから、譲渡はご法度なんだよな。」
「思い切り夏のホラー映画が一本作れるわね。実際に仏壇周辺になんか沢山いるし。」
「あ~、ミヤコは見えるのか。」
「うーん、なんかこちらのことをウォッチング対象にしているみたい。みんな正座座りして『(0゚・∀・)wktk』の顔文字さながら見てるよ。悪い人達ではなさそうね。」
そう、タクミは全く霊感ないクセに、ヤバい物件ばかり見つける才能がある。彼自身はそういう場所に着くと眠ってしまうから見ようにも見られないのだが。
だから、昔から心霊スポットに行く時にタクミが寝たらガチでヤバいという基準にすらなっている。
「あ~、すみませんね。お邪魔しちゃって。すぐ帰りますから。まあ、長いことここに住んでいらっしゃるのですかあ。今の元号は平成ですよ。」
「ぐ~zzz」
タクミは寝てるし、ミヤコは見えない何かに向かって世間話のように交渉しているし、なんかホラーというかシュールだ。
「ヒサト君、この人達、一旦おとなしくしてくれるからその時にタクミ君は目覚めるみたい。そのタイミングでここを出ましょ。」
「よし、じゃ、起きろ!タクミ!」
あれだけ雑に運んで、床に転がすようにしても全く起きなかったタクミがムクッと起きた。
「ん?ああ、また寝ちゃったか。ミヤコちゃん、お部屋どう?」
「ん、合わないかな。お手洗いなどを見たけど、かなり古くて汚いし。タクミ君、お掃除大変でしょ?」
タクミの奴、トイレ掃除担当と決まっているのか。
「ええ!それは嫌だなあ。じゃ、今回は無しだね。」
「はいはい、そうと決まれば出た出た!」
さっさと追いたてるように部屋を出て、不動産屋へ鍵を返却するために再び歩く。
「なかなか決まらないねえ。早くミヤコちゃんの手料理食べたいのに。」
…あのレトルト粥水増し事件を忘れてるとはおめでたい頭だ。
「料理してもいいけど、お買い物とお片付けはタクミ君ね。」
「いやあ、手料理食べられるならなんでもやるよ!」
タクミ…いろいろ手のひらです転がされてるな。俺はやはりリリカちゃんでいい。心の中で誓ったのであった。
俺と彼女と彼女の彼 達見ゆう @tatsumi-12
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