第3話 恐るべしアメリカ

  僕は入社1年目の23歳の時、仕事でアメリカ出張にいった。日本人の留学生を米国の大学に斡旋しているある企業から、「留学生が米国で学んでいる様子を取材してほしい」という招待旅行のオファーがあったためである。朝日、読売、毎日、サンケイ、日経の5社共同取材であった。

 米国はもちろん、海外に行くのも初めてであった。飛行機の窓から見る風景に僕はとても感動した。特にアメリカという国の懐の広さに驚いた。飛行機に乗っている1時間ぐらいの間、広大な田園風景が延々と続く。日本のちまちまとした田圃とはスケールが全く違う。時々、放射状の道路に沿って整然と家が並ぶタウンがある。何もない大地を人間の力で切り開き、豊かな土地へと変えていった米国の歴史が垣間見えた。「よくこんな国と戦争する気になったな。負けて当然だなあ」と強く思ったのだった。

 米国出張の際に、僕はぜひ買いたいものがあった。金髪女性の無修正のあっちの本である。日本では非合法であるが、米国では合法である。胸を張って購入してもなんら問題はない。景気よく5冊は買うと心に決めていた。

 取材の合間に時間が取れた日、僕はニューヨークのダウンタウンにお宝を手に入れるべく向かった。幸い、ちょっとした商店街の中でその手の店はすぐに見つかった。僕は入店すると、悔いのないようにしっかりと表紙をチェックし、自分の好みにあう、バラエティに富んだ5冊をチョイスした。

 ところが、いざレジにその本を持っていくと、黒人の店員が僕の顔を見て「あなたには売れない(ここから会話は実際はすべて英語です)」というのだ。「なぜだ」。僕が聞くと、「お前は未成年だからだ」というのである。

 「違う、俺は23歳だ」と言うと、「何か証明書を見せろ」という。僕はパスポートを渡し、「生年月日をよく見ろ。23歳だろう」と胸を張った。

 「ホントだ!!!」

黒人店員はびっくりするほど大声で驚いた。パスポートをしげしげと眺め、僕の顔と見比べながら「こりゃ驚いた」とつぶやいた。さらに、周りにあるいろいろな商店の店員に向かって「こいつ23歳だってよ、信じられるかい。ちょっと来てみろよ」とさらに大声で叫んだのであった。

 どれどれ、といった風情で、5、6人のアメリカ人が集まってきた。僕の顔を皆がじろじろ見て、「ホントにガキじゃないのかい」「こりゃあ驚きだ」とワイワイと話し合っている。黒人の店員はまるで自分が手柄をたてたかのように僕のパスポートを高々と掲げたのであった。

 その間僕は、金髪女性のエロ本を握りしめ、恥ずかしさに真赤になって無言で下を向いていた。日本人が若く見られることは知っていたが、まさかここでこんな形で犠牲になるとは。動物園の動物状態で「スケベな日本人」が今まさにここにいる。日本の恥である。日本国民のみなさんにこの場を借りて陳謝する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あべちゃん物語  @abe39

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る