第2話 おたまじゃくし

僕は奥手だった。性に目覚めたのは中2の夏である。

 ある日机に向って勉強をしていて、何を思ったかふとおちんちんに手をのばしてみた。こねこねと触っていると妙に気持ちいい。むずがゆいというか、体の中がふわふわするというか、とにかく今までに感じたことがない気持ちよさだった。

 ただ、気持ちはいいのだが何かが足りない。もどかしさを感じた僕は、いろいろな触り方を試してみるようになった。鬼頭の部分をなでなでしてみたり、袋の部分を持ち上げてみたりした。

ある日発見したのが、竿の部分を両手で挟み、摩擦させるように動かすと「とてもいい」ということだった。手のひらをすり合わせるようにひたすら動かしていると、急に脳天を突き上げるような感触がして、僕は生れて初めて射精した。

おちんちんの先から出た液体は白くてどろっとしている。僕は「これは明らかに膿である」と間違った判断をした。人に言えない変なことをしているのだから悪い病気にかかってしまったのだ。

当時はまだパソコンもインターネットも携帯電話もない時代である。検索して簡単に調べることはできない。恥ずかしくて友達に聞くこともできない。病院に行って見ず知らずの人に相談するなんて狂気の沙汰である。僕は1人で調べてみることにした。

最初は病気や人体について調べたが答えはない。意外なヒントをもたらしたのは理科の教科書であった。しゃけが産卵した雌のタマゴに精子をふきかけている写真とともに、精子と卵子が結合して有性生殖によって動物は子孫を増やすと書いてある。カエルの受精の仕組みもイラストで説明されていた。

僕も生物学的にはオスである。この白い気味の悪い液体は精子なのではないかと思い到った。

しかし、本当に精子なのだろうか。昔から探究心の強い私は確認しなければ気が済まなかった。小学校5年生の時のクリスマスプレゼントで貰った顕微鏡で、自分の精子を見てみることにした。

いつものように自慰行為をして、慎重に精子をプレパラートに移す。小さな四角い硝子蓋を上からそっと載せた。いざ鎌倉である。おそるおそる顕微鏡をのぞき焦点を合わせた。

「ギョギョギョギョ」。僕はのけぞった。白い頭に細いしっぽがついた、まさにオタマジャクシのような物体が何百匹もおり、水揚されたばかりのシラスのような高密度で暴れ狂うように泳ぎ回っていた。

理科の教科書で見たカエルの精子と全く同じ代物である。安堵したと同時に、生命の不思議に深く感動したのであった。

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