人類が滅亡した異世界で、一人で魔王軍と戦う勇者の話。

RYOMA

第1話 最後の人

それは空前の大ヒットを記録したゲームの続編の発売日。僕は日本屈指の大都市にある大型家電量販店でその長蛇の列に参加していた。ワクワクしながら、発売の開始を待っていたのだが、妙な音が聞こえ始める。それは最初は小さな笛のような音だった。段々と音は大きくなり、やがてそれは耳鳴りのように不快に頭に響き始める。その大音量はこれまで聞いたことないような爆音に成長して、僕の頭の機能を停止させた。


次に僕が気がついたのは、屋外だった・・大きな石の遺跡の真ん中で目を覚ました。状況が理解できない僕は、すごく混乱した。何が起こっているのか・・周りを見渡すと、少し離れた場所に青いローブを着た人がうずくまっていた。


とりあえず、その人に近づき声をかける。

「あの・・大丈夫ですか?」

その人は顔を上げる・・顔を見て僕は息を飲む。驚くほど美しく、そして悲しい顔をした女性だった。


その女性は手を僕の顔の方に掲げる、そして理解のできない言葉を口から発すると、手が薄く光る。その光を受けた僕の頭には、不思議な映像が浮かんでくる。それは見たこともない言葉の羅列だった。それはフラッシュバックのように何度も激しく僕の頭に響き渡る。


頭に色々な情報が無理やり入ってきた感覚・・少し靄がかかったように呆然とするけど、やがてそれは晴れていく。少しの頭痛と虚無感が残っていたが、意識ははっきりとしていた。


「ゴメンなさい・・・本当にゴメンなさい・・・」

美しい女性は僕にそう言ってきた。

「どうして謝るんですか?」

「それは私があなたの全てを奪ってしまったからです・・・」

その意味がわからなかった。何も失ったと認識していない僕は、女性のその言葉の意図がわからなかった。

「僕は何も失ってないですよ」

「いえ・・全てを失っています・・時間がありません・・手短にお話しします」

「時間がない?」

「私はもう直ぐ死にます・・」

「え?・・・」

「よく聞いてください。あなたは今まで存在していた世界とは全く別の世界へ来ています。ここはアルヴラーグ・・・虚無の魔王によって全ての人々が殺された世界です。私はこの世界唯一の生き残りでした・・・しかし、そんな私ももういなくなります・・」

「ちょっと・・・それはどういう意味ですか?」

「魔王はあなたも殺そうとするでしょう。あなたはそれから生き残り、そしていつの日か魔王を倒してください・・それが勇者であるあなたの使命です・・」

「言ってる意味がわかりませんよ! 勇者って何ですか」


「そこに武器や防具・・少ないですが食料なども用意しています。黒い本には私の書き記した情報が書かれています、困ったらそれを見てください・・うっ・・もう時間が来てしまいました・・勇者様・・本当に申し訳ありません・・でもこうするしか方法がなかったんです・・あとは・・宜しくお願いします・・・アルヴラーグに祝福を・・・」


そう言い残すと、その女性の体が光り始める。そしてその光の粒に分解されるように、四散して消えてしまった。それを見て、僕は呆然とする。


「な・・・」


それは僕の、絶望の冒険の始まりだった。




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