第4話 ふた昔

 第3話でも書いたが、怪談はよく連鎖する。同じ場所やテーマの話を続けて聞いたり、変わったところでは、何年もたって場所がリンクすることがある。


 最近、親族にずいぶん昔に聞いた話を、思い出すことがあった。


【ふた昔】

 親族Nに二〇年ほど前に聞いた話。


 彼女が芸術大学で管楽器を専攻していたときに、管楽器・打楽器のレッスン室近くにある倉庫が中から激しく叩かれたことがあった。


 彼女は中に誰か閉じ込められているのかと思って、扉を開けようとしたが開かない。そこで、教務課から鍵を借りてきた。


 しかし、開けてみると中は物がびっしり詰め込まれており人が入る隙間もない。そのことを確認して扉を閉めたのだが、鍵を閉めて動かないはずの扉のノブが、内側からゆっくりと回された。


 この話は、体験当時に聞いて「面白いなー」と心の隅においていたのだが、この間のお盆に実家に帰ったときに、当時の先輩のブログに同じ体験が載っていると、そのページを見せてくれた。ブログでは夏ということもあり、過去に体験した話が描かれていた。以下はその要約である。


『K芸大に新たに管打楽器専攻が設けられた折に建てられたのが、山沿いに立つ新音楽棟。その立地からか一階は半地下のようだ。


 音楽学部棟の一番下に管打レッスン室、通称管打レがある。本当は景観や省エネなどに配慮してのことなのだそうだが、この部屋の前は昼でも薄暗かった。続く廊下は明るいものの、管打レに差し掛かると光が差し込まず、空気も気持ちヒンヤリする。


 学生時代ここでよく練習していたが、続く練習で眠ってしまうこともあった。そばのソファーでだ。その日も疲れて寝てしまい。半覚醒の状態でいると、誰かが立ち止まって顔をのぞき込んでいる。 


 「誰?」「寝ているところを見るなんて気色悪」と思っていると、体を揺さぶられた。


 驚いて起き、周りを見渡したものの誰もいない。その日は練習どころではなくなって、急いでその場を引き払った。


 翌年、隣の校舎から管打レに抜ける扉の前で練習していた。


 そこは、年に一度学園祭に用いる備品入れになっていた。ちょうどその物置の前で練習していると物置の扉が叩かれた。


 中に誰かいる?


 扉に手をかけると、カギはかかっていない。ノブを回して扉を開け、電気をつけた。すると、すぐ目の前までぎっしり備品が詰め込まれている。人間が入るスペースなど無い。


 近くにいた後輩を呼んで中を確かめたものの、隙間なく備品が詰め込まれているばかり。彼女も半信半疑の様子だった。


 以来、そこでの練習はしないことにした。だって怖いもん……』


 もちろんNの体験を疑っていたわけではないが、まったく別のソースで二〇年近くの月日を経て同じ体験を読むと、怪異の存在を信じたくなる。


 ちなみに、この芸術大学では未だに不思議なことが起こると伝え聞く。



 今回は、四つの話を紹介した。


 短い話ばかりだが、人から聞き集める怪談の九九パーセントは短い話だ。


 機会があれば少し長い話なども披露したいと思う。


 もし、これらの話を読んで思い出した奇妙な体験があれば、身近な人に話していただきたい。そうすることが連鎖を呼び、あなたの隣に怪を呼び込むのだから。


                                  〈了〉

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怪談拾遺 宇瑠栖(うるす) @uls

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