第3話 くぐる
怪談を集めていると、妙な点でシンクロすることがある。
連鎖と言ってもよい。
同じ話、例えば金縛りの話ばかり聞くなど、似たエピソードが集まったり、一つの話で過去の怪異体験を思い出したりするのだ。それが醍醐味だという人もいる。
ある晩、後輩のRに唯一彼が体験したという話を聞いた。
彼が西東京の大学に通っていたときのジョギングコースで、突然尿意を催し、コンビニへ急ぐ途中で出逢った女の話だ。
その女は、電柱の下で体育座りをしており、Rは恐る恐る横を通ったという。詳細を突っ込んで聞くと、何か既視感がある。女が半透明で電灯の光が半分だけ透過しているところも、体育座りの描写も。
「それ、S駅から○○のほうに行ったとこちゃうか?」
と問うと、Rは、
「え! そうですけど、何で分かったんですか?」
と驚いた。
東京にいたころ、西東京の大学生に聞いた話が、同じような状況だったのだ。唯一違うのは、体育座りの女の向き。当時聞いたときは、こちらにずっと背を向けていたのだがRの話では振り向いたときにこちらを向いていたというのだ。
場所から考えると同じだろう。一〇年以上にわたってその場で怪異を起こし続けるのはすごいが、なぜ向きが変わったのだろうか。
ちなみに、彼はその後、同じ場所で女を見たことはないという。
この話を同僚のHさんにすると、驚いて聞いていたが、「そういえばウチの旦那がコンビニ帰りに同じようなものを見た……」と話をしてくれた。
【くぐる】
Hさんの旦那さんは、趣味が自転車ということもあり、気候の良い五月ごろは夜にトレーニングに行くのだという。
昨晩、トレーニングから帰ってきた亭主の顔色が悪い。問うと、湖岸でたたずむ白いワンピースの女を見たという。場所は、琵琶湖の波打ち際。周りは数キロにわたって松並木が続く場所で、波打ち際に沿うように国道が通っている。
しかし、街灯の間隔は非常に遠く、月のない夜はほとんど真っ暗だ。そんな中、ぼんやりと光る女性を見たのだ。第1話で述べたように彼には多少の霊感があり、過去に何度か幽霊らしきものを見ている。しかも、この体験が呼び水となって、数年前の大晦日の体験も思い出してしまった。
ある年の大晦日、除夜の鐘をつきに自転車で出かけた旦那さんは、その帰りにコンビニに寄り、そこから家へ帰る人気(ひとけ)のない道で、街灯の下にたたずむ女性を見つけた。
同じく白っぽいワンピース姿だったという。大晦日とはいえ、真冬の夜中に女性が一人で立っているのもおかしいが、それが袖のない夏物だったために人外のものと判断したという。
関わり合いにならないよう自転車で家に帰り、扉を開けると、家の玄関に白いワンピースの女が立っていた。先ほどの女だ。しかもHさんの住まいは玄関が狭くこの女の横を通っていくわけにも行かない。その上年末で、家の中に家族はいない。
旦那さんは、一瞬迷ったが、その女の中をくぐって家の中に入った。その場にはいないものとして、肚をくくったのだ。
くぐるとき、
「ううぅぅ」
といううめき声が耳朶を打ち、松が明けるまでその音が耳から離れなかったという。
この話を聞いて、先ほどの後輩Rの話の続きをした。結局この女性に影がなかったことで、この世のものではないと気が付いたのだが、このとき、一瞬の間に、三角座りの女性が身体ごと一八〇度体の向きを変えたと付け加えていたのだ。
翌日、私の後輩の話を亭主にしたHさんが、
「うちの旦那も、その手のものがこちらを見るときは、首だけを動かすんじゃなくて、身体ごとグリっと動くって言ってました」
と教えてくれた。
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