第2話 あいさつ
これは、小学生の夏に体験した話です。
小4の夏休み、母方の祖父の家に帰省していた私は、田舎の夏を満喫していました。
イトコ達と、海で遊び山で遊び真っ黒に日焼けするほど、毎日楽しく過ごしていました。
祖父の家の庭先で、イトコ達と遊んでいる時でした。その日は、お昼を食べたあとにサッカーをして遊んでいたのですが、庭の入り口に黒い和服を着たおばさんが佇んでいるのが見えました。
(ん?お客さんかな?)
自営業をしていた祖父の家には、お盆になると沢山の人があいさつ回りにくるので、気づいたら声をかけに行くのが習慣になっていました。
「こんにちは!祖父に用ですか?」
イトコ達と声をかけに行くと、そのオバサンはニコッと笑いながら。
「えぇ、あなた榕[アコウ]ちゃんよね?大きくなったわね。」
どうやら、オバサンは私を知っているらしく懐かしそうに話しかけてきました。
「榕ちゃんが小さいときに、オバサンの家に遊びに来たことがあるのよ。お母さんは元気にしてる?」
母を知っているということに警戒心が解けて、オバサンの質問に答えていたのですが。
ひとつ、素朴な疑問が浮かびオバサンに尋ねました。
「あの?祖父に会いに来たんですよね?どうぞ、家の方に上がってください。いまは祖父は出掛けていますが…。」
いままで笑顔で話していたオバサンは、急に俯いて優しい声で話始めました。
「お墓にね、行こうと歩いていたら。またまた、榕ちゃん達が見えてね。急いでいたのだけど、少し立ち止まってしまったの。先にお墓に挨拶に行って、おじいちゃん達には後で会う予定だったのよ。」
母方のご先祖様のお墓は、祖父の家の前を通って行くので(なるほど…)と、納得しました。
「じゃあ!オバサンが後で来るって言ってたって伝えておきますね!!あの…オバサンのお名前は…」
今更ながら、何処の誰で祖父とはどういった関係なのかわからなかったので、オバサンに素性を聞きました。
「オバサンはね、榕ちゃんのお祖母ちゃんの妹でね。名前は○○○といいます。」
「そうなんだ!じゃあ、家の人に伝えておきます!!暑いから気をつけて行ってきてください!!おじいちゃん、親戚のお見舞いに行っているから…帰ってきてないかも知れないけど。」
オバサンさんは、家の人達に宜しく伝えてね。っと、会釈をしてお墓の方向に歩いていきました。
イトコ達と手を振って見送り、お客さんが後から来るって伝えに行こうとした時、祖父が先程のオバサンと入れ違いで帰宅してきました。
「おじいちゃん!!いまね、お祖母ちゃんの妹の○○○さんって人が来てね!お墓行ってから来るって言ってたよ!!」
祖父に、ちゃんと伝言を伝えて誉められるかな~♪なんて思っていたら…。
祖父は眉間にシワを寄せて、そして青ざめた顔で私の肩をギュッと強く掴み低めの声で話し始めました。
「そんなことあるわけあんめーが!!!本当に○○○さんって言ってたのか??本当に言ってたのか!!嘘だったら承知しないぞ!!」
私は全く予想していなかった祖父の態度に焦り、オバサンの特長とか話したこととか早口に伝え始めました。
「本当だよ!!家の家紋の入った黒い和服きてて、眼鏡してて!!足袋はいて…あっ…」
祖父が…(そうだ)というような表情で、ゆっくりと。
「お見舞いに行くって言ったが、その人がな…亡くなったって連絡が来たから、行ってきたんだ。」
そう、私が会ったオバサンは…足袋だけだったのです。草履や雪駄など履き物を履いていなかったのです…。
祖父の家系では、亡くなった人に一旦家紋の入った黒い和服と白足袋を着せる風習がありました。
その後、亡くなった親戚の家に向かい。
お線香をあげるときに、顔を見させてもらったのですが。
間違いなく…あの人でした。
庭先で話していたときより、痩せていましたが、遺影の写真の中のオバサンは、話をしていた時のまんまのオバサンでした。
私たちが体験したことを、祖父が祖母の妹の家族に話すと。
「ネェちゃんに会いたい会いたいって言ってたからな…、一番に会いにいっただっぺな…。仲良かったからな…。」
祖母の妹の○○○さんは、既に亡くなっている姉(私の祖母)に会いにいったんだろうと。
祖父も親戚達も、私達を疑うことなく…やんわりとアノ不思議な体験を信じてくれました。
話していた相手が、亡くなっていた。
親戚だったからかも知れませんが、恐怖は感じず。
ただただ…不思議な気持ちで、こんな事が本当にあるんだな…なんて思っていました。
―そんな、夏の不思議体験でした―
ホラー・不思議[実体験・聞いた話] 榕 [あこう] @yo-28
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