ホラー・不思議[実体験・聞いた話]

榕 [あこう]

第1話

【生き写し】


これは、私の体験した話です。


我が家には、母が結婚する前から可愛がっている日本人形がありました。

何気なく連れて行かれた、祖父の知り合いの店で、人形を購入したらしいのですが。

元々人形を集めているわけでも、人形が好きというわけでもないのに、何故かあの時だけは「どうしても、この子を連れて帰らなきゃ」と思ったと後々聞きました。


その人形を購入してから、5年後に母は結婚しました。

結婚してから1年後に、私が産まれました。


第一子とあって、夜泣きや不馴れな育児で母の疲れがピークに来ていたある夜に。

私は原因不明の高熱で、救急搬送されたそうです。

何をしても熱が下がらず、ある程度の覚悟はしておくようにと医師から言われ、病院の待合室で私の処置を待っていました。


父や祖父母が病院に到着し、入院が確実だったので、着替えなどを取りに母と父は自宅に一旦帰ることに。

母は、「変われるなら私が変わってあげたい。どうにか、娘を助けてください。」心のなかで何度も何度も繰り返し呟いていたそうです。


家に着いて、入院中に使うものを詰めていると、父が「おい…人形、顔が赤くないか?」声のする方を見ると、父があの人形を手に取りボーッと立っていました。


「どういうこと?」母は父に訪ねながら、人形の顔を見ると、普段は色白の人形の顔が、明らかに赤くなり目はなんだかうるうるして見えたそうです。

「この人形…凄く熱いぞ…。」父がボソッと溢した言葉に、母は咄嗟に人形のおでこを濡れたタオルで冷やしはじめました。

数分後、自宅の電話が鳴り。

「もしもし?いま、処置室から出てきたわよ。急に熱が下がりはじめて、薬が効いてきたのかもっていってたわ。早く戻っておいで。」電話の相手は、病院で待っている祖母でした。


電話に出た父が、母にその事を伝えに戻ると、母がありがとう…っと話している声がしました。

ソッと近づいて、母の手元の人形を見ると。赤くなっていた顔は元の色白になっていました。

母が無言で、人形のおでこを指差すので、目を凝らして見ると…。

「えっ、そんなもの…さっきは無かっただろ?」人形のおでこに薄くヒビが入っていました。


電話が鳴った直後に、突然ヒビが入ったのよ…。

この子が助けてくれたのかな。。。



その後、病院について医師から話を聞いて。完全に熱は下がったが、念のために1泊入院していくように言われ。いつも通りの元気な私と母は病院に泊まりました。


その後は、夜泣きも嘘のように落ち着き、すくすく元気に私は育ちました。

ただ…1つだけ不安がありました。

3才を迎える頃の私が、母の日本人形と瓜二つだったからです。


娘に似た人形を作ったのか?と言われるほどに、私は人形に似ていたそうです。


大人になってから、人形と写っている写真を見ると、自分でも気味が悪いぐらいに似ています。


いまは、その人形は手元にはありません。

私が19歳の時に、突然消えてしまったからです。


謎の高熱騒動の後も、人形と私の不思議なリンクが沢山ありました。


人形が消えて、十数年経ったいま。

あの人形は、私の身代わりになってくれたのか、あの人形が私になろうとしていたのか。どちらなんだろうと、考える事があります。


それは、自分の部屋で寝る支度をしていたとき。

押し入れから物音と声のような音がしたので、何かなと襖を少し空けたときハッキリと聞こえたのです。


『オカアサン ガ ヨロコブ カラ…ワタシガ ○○チャン ノ カワリニ ナルノ……』


その声のようなものは、耳で聞こえると言うよりは、頭の中に響くような聞こえ方でした。


あの時の声とその時の声の内容を、いまだに忘れられません。


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