今期一番のクソアニメを決めようぜ!!(2017年夏)

ちびまるフォイ

クソアニメソムリエ検定があればいいのに

「さぁーー今回もはじまりました!!

 クソアニメナンバーワングランプリ、通称K-1!

 今期(2017年夏アニメ)で一番面白くない作品を決めます!!」


会場は前回と打って変わって静かだった。


「前回の投稿ではなんと★3つと、

 このシリーズの注目度の低さを物語りましたが!!

 クソアニメが誰にも望まれないまま放送されるのと同様に

 この空気小説も誰にも望まれないまま投稿されるのです!!」


司会のマイクパフォーマンスは冴えわたる。


「今回は、厳しい予選を勝ち抜き3作品がエントリー!!

 紹介する前に、前回の優勝『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』から一言!!」


ロクでなし「愚者しか見てないぜ」


「ありがとうございましたーーでは、エントリー1番、どうぞ!!」



エントリー1番

『異世界はスマートフォンとともに。』


小説家になろう発のWEB原作小説。

スマホを持って異世界転生した主人公の冒険アニメ。



「なんと!! 前回優勝したラノベ(笑)小説と

 同じ匂いを感じる作品が今回もエントリー!!」


会場からは「あぁ」と落胆というのか既視感というのか

食べ飽きた料理を見るような視線がそそがれる。


「エントリー理由は、あまりにストレスフリーな設計!

 しかも、この主人公……なんとスマホを使いません!!」


会場は「えっ」と耳を疑う。


「もちろん、マップ機能や写真を撮ったりはしますが

 メインは転生時に付与されたチート魔法で大活躍します!!


 そう、スマホはただのお供で、なくても困らないのです!!」


「チートハーレムいいじゃないか! ヒロインも可愛いし!」


「うるせぇ死ね」


会場の半分が消し飛んだ。


「記号的に配置されたテンプレヒロインがわんさと出てくるだけで

 興奮するなら店のマネキンにカツラ付け替えただけで恋をするのか!? あぁん!!


 こっちはヒロインと協力や絆を求めてるんだよ!!!

 札束風呂に使って美女を侍らせるだけのアニメが面白いわけないだろーー!!!」




<大変お見苦しい映像により、しばらくの間アルプスの美しい山々をご覧ください>




「さて、気を取り直して、エントリー2番!」



エントリー2番

『縁結びの妖狐ちゃん』


中国初の漫画のアニメ作品。

前世の記憶を巡って縁結びをする妖怪と人間の作品。


「ふたたび来てしまった中国アニメ!

 今期も猛威を振るいました!! すばらしい安定感!!」


「小日本が中国を嫉妬しているからだろ!」


「いえいえ、今回のエントリー理由もたくさんありますが

 その中で大きく2つにしぼりました!!」



・目的がはっきりしない

・ギャグと展開のバランスの悪さ



「この作品、あらすじを読む感じ縁結びしてるっぽいんですが

 そんなのはバトル前のおぜん立てで主人公は金をかせぐために行動します」


会場はふたたび「?」のマークが浮かび上がる。


「主人公は金が好きなキャラでお金儲けのために力を貸します。

 なので、パートナーのケモ幼女を殴ったり売っぱらうのは日常茶飯事」


「それだけ聞くと、アバンギャルドで面白そう」


「が!! バトル展開も入るのに仲間を裏切ったり

 急にペロペロキャンディーで買収されたりと、ぜんっぜん盛り上がらない!!」


「銀魂とかはバトルとギャグの両立ができてるだろう!」


「その通り!! あなたにはペロペロキャンディーをあげましょう!!」


ヤジった観客には漫画によくあるうずまき型のキャンディーが贈られた。

成人間近の男がキャンディーで嬉しくなるわけがなかった。


「銀魂はバトル展開では、ギャグとシリアスが1:9

 ボボボーボ・ボーボボはギャグとシリアスが8:2


 シリアスな展開ではギャグをアクセントに、

 ギャグな展開ではシリアスをアクセントにしているのがわかります」


司会はぐっとマイクを持つ手にちからを込める。


「妖狐ちゃんでは、ギャグとシリアスが何と50%の最悪ブレンド!

 敵前でキャンディー舐めだしたりと、真剣なバトルでふざけて

 ふざける日常で金もうけに真面目になったりするバランスの悪さ!!


 構成力というか"何を楽しんでもらうか"を度外視した

 "モヤシマシマシシルナシラーメン(焼きそば)"といった状態でした!!」


つい熱が入り長くなったのでADは次のカンペを出した。



「さぁ、次のエントリーへ行きましょう!!」



エントリー3番

『ようこそ実力至上主義の教室へ』


MF文庫初のライトノベル。

教室単位で付与されるポイントをめぐる学園アニメ。



「じゃあ紹介しまーす。今回のエントリー理由は――」


さっきの沸騰寸前だった熱はどこへやら。司会は一気に脱力した。



「エントリー理由は主人公の魅力のなさにつきます。

 脱力系主人公は涼宮ハルヒの「キョン」からはじまり

 昨今の異世界ラノベでは性欲という原動力があるので、特殊な部類でしょう」


司会のやる気のなさに観客も思わず肩の力が抜ける。


「めんどくさいのでー。アニメの展開をざっくり紹介しますーー」



教室単位でポイントを付与するぜ!

みんなでいい成績とってポイント(金)を集めてね!

 ↓

でも、みんなバカだから

エンドのE組で下剋上しようもない!

 ↓

主人公「こんな方法があるぜ」

 ↓

成績あがった!主人公神!!!!!!!!!!! ←いまここ



「まぁ、なんつーか。やる気ないくせに本気出すとすごい。

 実力はあるのに目立ちたくないという中二病の治療後におきる

 "俺はすごいんだぞ症候群"の怖さを見事に表現しています」



「でも、ポイントや教室対抗なんて面白そうな設定じゃないか!」


「別になくてもいい設定ですけどね」


「ええ……」



「教室ごとに成績を競うなんてのは体育祭でも普通にやられてます。

 単にその報酬が金という形式でおまけがついただけなので新しさはない」


「主人公の発想もあるだろ!!」


「で、みんながマンセーと持ち上げる脱力主人公ですが

 "まさか!?"や"そんな!!"といったアイデアも別にないです。


 いや、もちろん、変わったアイデアを実行していますが

 それは結局買収だったりとやり方はチープで驚きはありません」


司会は脱力キャラをやめて本来のキャラを取り戻す。

脱力キャラは元気キャラ(ハルヒ型)がいるからこそ輝けると知ってしまった。


「つまり!! 驚きもなければ協力もない!!

 "こんなの思いつく俺スゲー"の主人公をみんなで持ち上げるアニメです!!


 成績によって支給されるポイント(≒金)を使った応用方法や裏をつくことはない!


 ハッキングとか株とか裏ポイントとかペニーオークションとか!

 ポイントという形式を使えばいろいろできるのに!!


 "視聴者から見て頭悪い主人公"が持ち上げられる展開に今回はエントリーでした!!」


ひとしきりの紹介が終わり、司会はひと段落つく。


「さて、今期3作品のエントリーが決まりましたので

 ここからはどれにするかの決定戦を……あれ?」



ぐにゃりと視界がゆがみあたりは一気に暗くなる。




「ハッ!! 夢か!!!」


目を覚ますと、司会は布団の上で目が覚めた。


「フッ……もしもの夢を見るなんて、俺も疲れているな……。

 今期のクソアニメは18ifで決まりだというのに……」




優勝作品

『18if』


スマホゲーム「【18】キミト ツナガル パズル」のアニメ化作品。

夢の研究者の相棒とともに夢の世界を解決する話。


参考作品:『パプリカ』 今敏監督作品

     『インセプション』 クリストファー・ノーラン監督作品



「優勝おめでとうございます!!

 今期で異彩を放っての大勝利になりました!!

 設定だけみるとモロにパプリカっぽくなりますが、内容はもっとえぐいです!」


「同じ設定ならおもしろいじゃないか!」


「このアニメのクソポイントは、夢という部分を踏まえても

 視聴者をおいてけぼりにしたユメ展開につきます。


 主人公は夢に抱える闇や謎を解決する……というわけでもなく、

 相棒(子安)にいわれるがままにやってる感が強いゆとり世代です!」


司会はさらに続ける。


「全体的に暗く重い話が多いんですが、どれも安っぽくてありきたり。

 今期の『地獄少女』ではリアリティがあり共感もできるストレス設定ですが……」




"実は私、両親を殺されてレイプされたあげくに

財産すべてをとられて、今は極貧のアルコール中毒生活なの……"


「さて、みなさん、こういわれたらどう思いますか?」




観客は答えにこまって気遣うような言葉を探す。


「そう!! わからない!! 全然わからないんです!!!

 自分と境遇が遠すぎてぜんぜん感情移入できない! わけがわからないよ!

 そんなハリボテの"闇"を見せられてもうすら寒いだけです」


「でも夢だし……」


「解決しようと必死になっているのは相棒だけで主人公はやる気なし。

 場合によっては、加害者側に立つこともあります。なんだこれ。


 もちろん、視聴者の裏をかくことも、ときに敵に回ることもアリですが

 それは視聴者がついてきている時の話!


 なんだか支離滅裂な話に"意表を突く"もなにもないんです!!」



ある日、空を歩いているとテレビの中からうさぎが出てきて

目薬を差してあげたら魔王が大爆発して世界は平和になった。


「……はい、意表をつきました。予想外でしょ? おら、喜べよ」


観客は司会の頭のネジが逆回転したのかと心配した。



「ということで、今期のクソアニメ(7話段階)では

 ぶっちぎりで『18if』に決まりました!! おめでとうございまーーす!!」






「……しかし、私は決して見るのをやめません!! 最後まで見ます!」



「もういいだろ! もう十分傷ついたじゃないか!?

 これ以上、時間と体力とHDD容量を減らしてなんになる!?」



「じゃあ誰が見るんだよ……。こんなクソアニメ誰が見るんだよ!?」


「司会……!」



「こんなクソアニメでも作っている人がいるんだ! その人にも家族はいる!

 俺は最後までクソアニメを見て、誰の記憶にも残らなくなっても

 世界の中心でまた誰かが思い出せるようにクソだと叫んでやる!!」



「そんなにもクソアニメに対して愛情を持っていたのか……」


「おもしろいアニメのほうが絶対にいい。

 でも、その裏で量産されるクソアニメを忘れないことも作家の義務なんだ」


「そうか……」


観客は納得して最後に言った。




「じゃあ、DVD買えよ」


「それは"小学生のときに書いた漫画"を売りつけるのと一緒だぞ」

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