聞こえない

9741

第1話

 とある通学路にて。


「やーい。ミミのばーか」

「のろま! クズ!」 


 クラスメイトがミミの悪口を大声で言う。 


 しかしミミには聞こえていない。

 彼女の耳は病気で聞こえない……。


「(こいつらの靴、後で隠してやろう)」 


 のは、一ヶ月前までの話。 

 

 ミミの耳はすでに治って、音は聞こえるようになっている。 

 それを知っているのは、彼女自身のみ。 


 ミミはこの状況を楽しんでいた。耳が聞こえないと、他人の本性がよく分かる。


「おいやめろよ! ミミが聞こえないからって、悪口言うなよ」

「げぇ、うざいのが来た」

「うざいな。いこうぜ」 


 ミミの恋人カズマの登場により、悪ガキ二人は退散する。


「ありがとうカズマ」 


 ミミはカズマにお礼を言う。 


 二人は一緒に通学路を歩く。


「あいつら酷いよな、まったく」 


 そうだね、とミミは心の中で言いながら、頷く。


「耳が聞こえないからって、何言っても良いわけじゃないのに……」 


 少し間が空く。 


 すると、カズマは小声で。


「好きだ。ミミ」 


 と言った。 

 一瞬、声を上げそうになるミミだが、口を押さえる。


「顔も可愛い。声も可愛い。性格も可愛い。あと……」 

 

 カズマはありったけの言葉を並べて、ミミを褒めちぎった。 

 顔が真っ赤になるのをミミは必死に我慢する。


「ふぅ。……こんな恥ずかしいセリフ、普段なら絶対ミミには聞かせられないな」

「(もう少し、聞こえない振りしよう)」 


 恋人の愛の囁きを楽しみに、今日もミミは聞こえない振りをする。

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