(後編)だって僕は……

 気がつくと僕は地面に倒れ込んでいた。

 視界がぼやけていてまだ頭がボーッとする

 い、一体どうなったんだ?

 体は冷たい地面の上に寝かされているけど不思議と頭だけは柔らかな感触を感じていた。

 それに何だか甘い香りがする。


「気がついた?」


 そう声をかけられてふと見上げると、次第に明瞭になっていく視界の中に見慣れたミランダの顔があった。

 彼女は元の通り、『深闇の黒衣』ヘカテーを着ていた。


「ミランダ……良かった。衣装が元に戻ったんだね」


 僕がかすれた声でそう言うとミランダはあきれた調子で、だけど少しだけ嬉しそうに言った。


「あんたって本当にイザとなると向こう見ずになるわね。普段はビビりのくせに」


 そう言うミランダは信じられないことに僕を膝枕ひざまくらしてくれていた。

 僕は何だか気恥ずかしくて体を起こそうとしたけど、それをミランダが押し留める。


「まだ寝てなさい。暗黒魔法の効果が消えてないから、満足に動けないわよ」


 確かにミランダの言う通りで、意識はだいぶハッキリしてきたけど、体にはまだ鈍い麻痺まひが残っていた。

 ふと視線をミランダと反対側に向けるとそこにはジェネットの姿があった。


「アル様。大丈夫ですか?」


 ジェネットは心配そうに僕の顔をのぞき込んだ。

 彼女もミランダ同様に元の衣装に戻っていた。


「へ、平気だよ。ジェネットこそ気を失っちゃったみたいだけど大丈夫? みっともないところを見せてごめんよ」


 そう言う僕にジェネットはかぶりを振った。


「いいえ。ライブカメラに私達の恥ずかしい姿が映るのを防いでくれたんですね。強く強く感謝します」


 どういたしまして。

 代わりに僕の恥ずかしい姿がこの世界中に生配信されましたけどね(泣)。


「ミランダ。今度は私がアル様を膝枕ひざまくらしますから交代して下さい」


 そう言うとジェネットはミランダから奪うように僕の頭をつかんで自分のひざに乗せてくれた。

 途端にミランダは苛立いらだちの声を上げる。


「ちょ、ちょっと。なに勝手なことしてんのよ! アルは私が面倒見てるんだから、あんたは出しゃばらないでよ」

「自分ばかりずるいですよ。私にもアル様を介抱かいほうさせて下さい」


 そう言ってミランダとジェネットは僕の頭を引っ張り合う。


「く、首が……首が折れるから!」


 強引な二人の態度に僕は困惑したけれど、それでも僕は嬉しくて二人に感謝の念を抱いた。


 ありがとうミランダ。

 ありがとうジェネット。


 だけど一つだけお願いがあるんだ。

 このままだと僕、とても居心地が悪くて。

 だって僕は……


















 全裸だから(泣)。


「だから何で僕だけ元に戻ってないんだ! というかだいたい2人とも全裸の僕を間近にして何でそんな平然としていられるの(汗)」


 さっきは僕の全裸にキャーキャー悲鳴を上げてたくせに、ミランダもジェネットも今はやけに落ち着いている。

 だけど僕のその疑問はすぐに解決した。


「心配しなくても、あんたの下半身はすでに見えていないわよ」


 ミランダは涼しい顔でそう言う。


「え?」


 僕があごを引いて自分の下半身を見ると、ミランダの言う通り、ご丁寧ていねいに局部にモザイク処理がかけられていた。

 唖然あぜんとする僕にジェネットはやさしい微笑みを投げかけてくる。


「運営本部がすぐにアル様の大事なところを隠してくださったんですよ。良かったですね」


 そ、そんなデジタル処理を……というかモザイクなんかかかってるもんだから、かえって卑猥ひわいで変態チックに見えるじゃないか(涙)。

 この状況で外から誰かが入ってきたらどうなるか分からないのか運営は!(怒)


「ママー。モザイク全裸マンが女の人に膝枕ひざまくらされて寝そべってるよ」

「シッ! 見ちゃいけません!」


 とか言われかねないだろうがぁ!

 じ、地獄。

 これは地獄!(号泣)


「か、かけるならモザイクなんかじゃなくて、毛布の一枚とかそういう温かい対応をお願いします(泣)。いや、というかせめてパンツを……パンツをかせてくれええええ!」



~終劇~

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