(中編)こ、これは放送事故だ!

「すごく似合ってる。二人とも」


 僕はそれ以上うまい言葉が出なかったけれど、そんな簡単な讃辞さんじに二人は気を良くしてくれたみたいで、衣装チェンジャーを利用してその後も次々と色々な服を着ていく。

 そうするうちに二人とも慣れてきたみたいで、着こなしっぷりも段々と板についてきた。


「どれも悪くないけれど、そろそろ本番用に一番いいのを決めないとね」


 あれだけ嫌がっていたのにすっかり乗り気になっているミランダの様子に内心で苦笑しながら、僕はジェネットに目をやる。

 彼女も嬉しそうにうなづいた。

 その時だった。


 彼女らの腕に装着されている青い腕輪の衣装チェンジャーが出し抜けに激しく振動し始めたんだ。

 僕の腕に誤って装着されているチェンジャーも同様にブルブルと震えている。


「な、何だ?」


 僕は驚きの声を上げ、ミランダとジェネットも怪訝けげんな顔で各々の腕輪の異変を見つめる。

 その途端だった。

 何の前触れもなくミランダの着ている衣装のトップスが消え、彼女の上半身は下着を残して何も身につけていない状態になったんだ。

 僕は思わず目が点になってしまった。


「ミ、ミランダ?」

「へ? キャッ! 何よこれ!」


 悲鳴を上げるミランダは慌てて両手で自分の体を抱きしめて胸元を隠した。


「こ、こっち見んな! スケベ!」


 涙目で僕をにらみつけるその顔は、恥ずかしさから真っ赤に染まっている。

 僕は慌てて目をらそうとしたけれど、今度はミランダの隣にいるジェネットのトップスが消え去り、ミランダ同様にジェネットも上半身下着姿となってしまう。

 な、何てこった(汗)。


「は、恥ずかしいです」


 ジェネットはうつむくと自分の胸元を手で隠す。

 どこかズレたところのあるジェネットは以前は平気で僕の前でも着替えをしちゃうようなブッ飛んだ女の子だったんだけど、最近は羞恥心しゅうちしんを覚えたみたいだった。

 ミランダのように悲鳴を上げることこそないけれど、身をすくめて恥ずかしそうに目をつむっている。


 ゴ、ゴクリ。

 そ、その態度が逆に扇情的せんじょうてきで僕の頭をクラクラさせる。

 すると今度はミランダが怒りに満ちた表情で怒声を上げた。


「コルァァァァ! アル! エロい目でジェネットを見てんじゃないわよ!」


 ミランダがジェネットの体を覆い隠そうとするかのように抱き寄せた。


「ち、ちち違う! そんな目で見てないから!」


 苦しい言い訳を口にして僕は自分の手で両目を覆い隠した。


 何かおかしいぞコレ。

 不具合じゃないのか?


 腕輪型の衣装チェンジャーは二人が操作していないにも関わらず、勝手に彼女らの衣装を消滅させてしまっている。


「は、早く衣装チェンジャーを解除しないといけませんね」


 そう言うとジェネットは運営本部への解除手続きに入る。

 だけど僕が目を閉じている間に、状況はさらに悪化した。


「キャアアアアアアッ!」


 ミランダがさらなる悲鳴を上げる。


「ど、どうしたの?」


 その悲鳴に驚いて僕が思わず目を開けると、今度はミランダもジェネットもトップスのみならず下半身の衣装までもが消え失せてしまっている。


「マ、マジか!」


 二人とも完全に下着姿になってしまっていた。

 いよいよリーチだ。

 い、いや別に期待しているわけじゃないからな!

 本当だぞ!(必死)


「何なのよこれは!」


 ミランダの悲鳴混じりの声が響き渡った。


「見るな! 目をつぶりなさい! アル!」

「アル様。どうか、どうか見ないで下さい」


 二人とも必死に声を上げ、僕は再びすぐに目を閉じて後ろを向いた。


「わ、分かってるってば! 見てないよ!」


 僕は背を向けたまま二人に言った。


「目を閉じてるから、早く運営本部に言って衣装チェンジャーを解除してもらって」


 そう言った直後のことだった。


「キャアアアアアッ!」


 とうとう二人が今までで最大の悲鳴を上げたんだ。


 な、何だ? 

 今度は何?

 まさか、ついに二人とも下着すら消えてしまったんじゃ……。

 そ、そんな。

 それじゃあ全裸じゃないか!(真顔)


「ど、どうしたの? ミランダ? ジェネット? 何があったの?」


 目をふさいだまま不安げにそう尋ねる僕だったけれど、ミランダもジェネットも取り乱していて、なかなか言葉が出てこない。

 それにしても何だか妙に体がスースーするような気が……。


「こ、このド変態! 何考えているのよ!」


 ミランダが僕を責める怒りの声が響き渡る。


「え? それってどういう……」


 僕は思わず再び目を開ける。

 すると……何と今度は僕の衣装が消えてしまっていた。


 し、しかも上半身&下半身まる出し!

 全裸なのは僕でした(泣)。


 おいいいいいいいいいっ!


 この衣装チェンジャー完全にイカれてるだろっ!


 何で僕だけホップ・ステップの段階を踏まずにいきなりシャツ・ズボン・パンツの三段飛ばしで全裸になるんだ!

 しかも靴下くつした兵帽へいぼうだけは身につけているというド変態スタイル(白目)。


 これを見たジェネットは顔を真っ赤にしたまま、ショックのあまりバッタリと倒れて気を失ってしまった。

 その隣でミランダは目に涙を浮かべて金切り声で叫び出す。


「この変質者! 地獄に落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 下着姿のミランダは全裸の僕に向けて手の平をかざした。

 その手の平から猛烈な勢いで黒いきりが噴射される。

 ミランダの暗黒魔法が炸裂さくれつして、僕の体を黒いきりが覆いつくしていく。

 ミランダをよく知る僕は、その魔法の正体にすぐに気が付いた。


 ま、まずい。

 この魔法は多分、体を麻痺まひさせるやつだ。

 このままだと動けなくなる。

 全裸で(涙)。


 さらに良くないことに、ミランダの発した黒いきりが洞窟内に充満し始める中、突如としてそこに一台のカメラが姿を現した。

 あ、あれは……全世界生配信のライブカメラだ!

 衣装チェンジによって決定したミランダとジェネットの姿を撮影しにきたんだ。


 やばい!

 こんな時に。

 このままじゃ二人のあられもない姿が全世界生配信されてしまう。


 気を失っているジェネットはもちろん、あまりに突然のことにミランダもまったく反応出来ない。

 ライブカメラのファインダーが二人に向けてギラリと目を光らせたように感じた瞬間、僕は反射的に走り出していた。


 ミランダの暗黒魔法のきりの効果が出始める前に何とかしなきゃ!


 僕はダイナミックなストライドで(注:全裸です)ミランダとジェネットの前に割り込み、ライブカメラに向かって思い切りダイブした(注:全裸です)。


「うおおおおおっ!」


 そして勢い余って股間こかんをライブカメラのファインダーに押し付けながらドシャッと倒れ込んだ。

 その瞬間、ライブカメラはビーッという警報音をけたたましく発する。

 だけど僕に押しつぶされて地面に激突したそれは、ガシャンという破壊音とともに大破して沈黙した。


「い、イテテ……」


 そこで僕は急激に体が動かなくなっていくのを感じた。

 し、しまった……。

 ミ、ミランダの暗黒魔法が効き始めて体が麻痺まひ状態におちいっていく。

 ぜ、全裸のまま麻痺まひとかばつゲーム過ぎるよ(泣)。


 せめて……せめてパンツをかせて……くれ。

 ウッ。

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