第3話 盆踊り

これまで拾い集めた怪談は怖い話だけではない。

中にはほっこりするものも多分にある。

日中の熱が夜になっても冷めないお盆の時期に友人宅で日本酒を飲みながら聴いた奇妙なお話を記録しておく。


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京都で働く友人から聴いた話だ。大文字焼きで有名な京都では、この日までに街のいたるところ、主には学校のグラウンドや公園を使用して盆踊りが開催される。


その友人は、未婚で、祭りに一緒に遊びに行く恋人もおらず、飲み友達ぐらいがお盆休みを一緒に過ごす仲間だった。

その日も、夜深い時間まで飲み、夜中の2時ごろ会計を済ませ帰路に着いた。


家まで歩けなくもない距離。終電も終えた京都を歩いて帰ろうと片道20分ほどの道をゆっくりと歩き始めた。街は寝静まっていたが風が少しだけ涼しく気持ちよく歩いていると、遠くから祭りの音頭がうっすら聞こえてきた。


「こんな時間までやってるものか??」


不思議に思った友人は音を頼りに歩みを進めた。

行き着いた場所は家の側のすでに廃校になっている校舎のグラウンドだった。

ほのかに暖かい光が灯っており、普段閉ざされた校舎の入り口が開いていた。

学校の塀からは、やぐらが少し覗いている。屋台で一杯くらいひっかけて帰ろうかと思いグランウドにいくと、大人も子供も老人も祭りを楽しんでいる。


こんな時間に子供まで…まぁいいかと屋台で酒を買おうとするも酔っ払っているのか字が読めない。「にぃちゃん、だいぶ酔ってるなぁ」といい、ひょいとお猪口を出されて、無意識に受け取ると、見た事のない酒を注がれた。それがなんとも形容しがたい美味さだったという。酒好きの友人がいうのだ、相当な美味さだったのだろう。


気付けば何杯も飲み続け、楽しい気分に浸っていたとき、盆踊りが始まった。

美味しい酒に久々のお祭りムードで男は盆踊りの輪に加わり、ひとしきり楽しんだ後、また酒を飲み始めた。あまりの気持ち良さに、うとうとし始め、酒を注ぐおじいさんに顔を覗かれこう呟かれた。


「にぃちゃん、こっちの人じゃないんか、まだ早いなぁ」


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強い日差しで男は廃校の門の前で目を覚ました。

昨日まで開いていた校門は、いつものように閉ざされていた。

背伸びをしてグラウンドを覗くも、昨日まであった祭りの影は一ミリもなかったという。


「もしかして、あれみんなおばけだったのかなぁ」


と飲兵衛な友人が日本酒をくいっと飲み干す。

「そうそう、これ」といって私の前にお猪口を掲げて見せた。

「これ、あの夜の祭りで飲んでたお猪口なんだよ」

そういって嬉しそうに見せてくれたお猪口は、

どこにでもである普通のお猪口だった。


あの夜、飲んだ酒の味を思い出して、

また飲みたくなる、でも死ぬまでお預けだなぁ

そうこぼして手酌で酒を注いでいた。

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蒐集怪異談 @shike-moku

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