第2話 飛び降り自殺
社会人になり知り合った友人と飲み屋で怪談の話になった。
世の中にあるこの手の類の話はどこか設定を変えた噂話の改変が多いのだが、この話は今でも頭にこびりついている。
友人はあまり聞いた事のない関西の大学に通っていた。法学部に在籍していた彼は、一応地方大学でも真面目に講義を受講していたタイプの生真面目な人間で、入学したての講義中にそれは起きた。
100名近くが受講する基礎科目での話だ。大学でも一番大きな教室が使われ、その教室は左右を古めかしい縦に長い大きな窓が定期的に並ぶ教室だった。1階にあった教室だったので外の緑が見えて、気持ちの良い教室だったという。
午前中に開講しているにもかかわらず、その教室を利用する時にはなぜか窓にカーテンがかけられていた。入学したての友人はそれが不思議だったという。教授はそれがあたり前のように講義を進める。
しばらくすると、「どさっ」と何かが落ちる音が聞こえた。
ちょうど教授も会話を止めた瞬間だった。確実に外で何かが地面に落ちた音だった。
100名近い学生は静かにざわめき始める「今、何か落ちたよね??」と小声で会話が広がり始める。
「みなさん、お静かに」
ぴしゃりと教授が場をなだめるも、沈んだ瞬間に「どさどさっ」とまた何かが落ちてくる音が聞こえた。教授が暗い顔でため息をつくのを友人は見ていたという。
窓際に座る学生が一人、興味本位でカーテンを覗こうとすると今まで温厚だった教主が「座りなさい!」と大きな声で喚いた。
急な激変ぶりに学生たちも驚き静かになった。
そのあとも80分講義の間、ずっと何かは落ち続けていた。
講義が終わり、教授が教室を離れたあと、カーテンをあけると見慣れたキャンパスの風景が広がっていた。
大学の先輩にその話をきくと、通過儀礼のように説明された。
飛び降り自殺がかつてあったらしい。
その自殺が起きた曜日の講義時間のみ、何度も飛び降りをしてる幽霊だという。
「でも先輩、落ちる音が何度もたくさん落ちる音も聞こえましたよ」
というと、「一人じゃないからね」と。「カーテンは本当あけないほうがいいよ」と教えられた。過去、同じように気になって最初にカーテンを開けた人は、みな理由もわからず同じ場所で飛び降り自殺をしてしまう。噂だけどね、と言葉を残して先輩は席を離れて行った。
ある晩、暇を持て余した友人たちは、夜のキャンパスに幽霊を確認しにいこうと盛り上がった。時計は0時を過ぎていた。徒歩圏内の下宿に住んでいた友人ら同級生は、警備員の目を盗み、大学に忍び込んだ。真夜中の大学は静かな空気に満たされていた。目的にしていた法学部の建物が見えてくる手前、同行した友人が「うわ…やめたほうがよさそう」と驚きつつ足を止め、指をさす。
目を凝らして真っ暗な法学部の建物を見ると屋上にうっすら人影のような黒い靄が佇んでいるように見えた。一緒に忍び込んだ友人たちも「まじだ…」と言って見つめ続けている。
目を凝らしよく見ると、一人ではないのだ。
無数の人の形をした黒い靄が屋上にずらっと並んでいる。
そして、一人、二人と屋上から身を投げたしている。
それは終わりのない身投げのようで気持ち悪くなって走り帰ってきたという。
…
あれ以来、母校へは足を運んでいないんだよ。と酔っ払った顔で友人は語る。
噂ではもうその建物は老朽化で取り壊されたらしい。
「ビール、おかわりください〜」
と友人がオーダーをすると店の外で「どさっ」と音が聞こえ、
びくり、と酔いがさめるように友人がおどついた。
よく見ると店の前で他の飲み屋がゴミ袋を捨てた音だった。
「未だにあの音が苦手でね…」
と困った顔をして俯いたのだった。
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