第7話もとの時間
二人、その日のパーティーの場で、王様に拝謁した。
「それで、そのう……」
王子、しどもどしながら言い訳をする。
「ザインもガインも聖女と聖騎士の血を浴びた……それで改心したというのか。ううむ……」
その王子の顔がぱあっと輝いた。
「王様、その聖女と聖騎士です!」
言われて初めて気づいたように王様、やってくる二人にお声をかけた。
「おお、楽しんでおるか」
「いえ、王様には約束を守っていただかねば」
「ほほう? 私は日になんども契約を交わすので、憶えてなかったらすまない」
「オレの記憶はっ!」
「……それと私をもとの世界へ返してほしいの。できるんでしょ?」
王様は大きな宝珠のついた丈を床について、得心がいったように答えた。
「ふっ、よかろう。そなたの望み叶えてやろう。しかし後悔するでないぞ」
「……後悔? なぜ?」
「夢の時間は短いものだ。さあ、元の時間へ戻るがよい!」
王様が丈をかざす。ちかちかとまばゆい光の中、剣士が駆け寄ってくるのが見えた。
「おい、待てよレイラ、オレ記憶戻った……シャインだ――オレの名を忘れないでくれ。いつまでも……」
(え? よく聞き取れない……眠い)
必死そうなその横顔も、いつしか印象しか残らなくなって……。
ここは……この部屋は。何の変哲もない木目調の机と椅子。そおっと触れると、いつも置いてあったノートパソコンがない。愛猫が死にかけていたというのに、音声の編集なぞしていたあの、赤いそれが。
目をこすったら、机の上に書きかけの二十年日記。十三年目に至って真っ白なページが続いていた。猫を初めて買った日からずっとつけていた日記。猫が病気になってから書かれなくなっていた、重量のある武器にもなりそうな日記。
あれは夢だったのかと、机に向かってぼんやりする。そこへ、チャイムの音がした。のろのろとドアを開けると、愛猫の骨壺を持った黒づくめのスタッフが。
カバーには愛猫の名前が書かれていた。「輝」――シャイン。
血統書にあるファーストネームは、シャインだった。だから、それにちなんで名付けた。輝、と。今まで忘れていた。
私を助けてくれたあの少年剣士は輝だったんだ――。
レイラは不思議そうな顔をして、骨壺を受け取った。
何もかも信じられなかった。ただ涙だけが生暖かく頬を濡らした。
END
レイラの冒険譚 れなれな(水木レナ) @rena-rena
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