第4話 食堂

 何故か激しく疲れたような気がするが、無事食堂に辿り着くことができた。ほぅ、ここの食堂は券売機式なのか。金ねえんだけど。

 なあ、ロー。金持ってない?

『……主。ついさっき主に呼ばれて降りた俺が金を持ってると思うか?』

 ですヨネー。どうしようか。他の人が食べてんの見てるだけは絶対に嫌なんだけど。そんなんするくらいなら奪うね。

「どうしたの?買わないの?」

「へっ!?あー、俺金無くて……」

「え?スカウト制なんだから無料だよ?ホラ、彼処のギャルソンさんに言えばくれると思うよ?」

 え、そうなの?なら良かったわ。てか、この世界にもギャルソンってあるんだな。あ、あの人か。

「すいません、スカウトで連れてこられたんですけど…」

「…ああ、神狼様の方ですね」

「違いますよ?神狼はコレです。僕はアキラです」

「そっ、それは失礼しました。アキラ様、ですね」

 ま、それでもいいや。あ、契約獣も腹って空くの?

『ん?モノにも寄るだろうが、俺はどっちでも平気だ』

 ほへー、了解であります。

「じゃあ味噌ラーメンと、醤油ラーメンください」

「はっ、はい。少々お待ちくださいませ」

 味噌と醤油食べ比べしよーぜ。醤油も食べたい。

『…はいはい。仰せのままに』

 そうしてしばらく俺は口を開かずにローと話していると数分経過し、さっきのギャルソンさんに呼ばれた。ラーメンできたかな?

「お待たせいたしました。味噌ラーメンに醤油ラーメンです」

「ありがとうございます」

 ギャルソンさんからラーメンの乗った盆を受け取って席を探す。丁度人が増える時間帯だから何処も満席だ。カイトの周りも既に人が座っている。この中二席も探すのは困難だなぁ。うーん、どーしよ。

『主、右斜め方向。全席空いたぞ』

 お、んじゃ行きますか~。お手柄だねぇ。

『別に?』

 というか、もしかしなくても空いたんじゃなくて空けてくれた席だよねぇ?

『だろうな』

 ありがたいけど、なんか申し訳ないなぁ。

『やられることは感謝して受け取っとけ』

 ……んー、そうだな。見知らぬ誰かさん、ありがとさん。じゃ、食うから元に戻って。ん?どっちが本来の姿?

 ポフンと音がして周りがざわめきに包まれる。

「一応、獣の姿だぜ?じゃ、まず俺醤油な」

「俺味噌ー」

 まずはスープを一口。うん、味が深くて美味しいね。次に麺、うん、コシが効いててウマイ。噛みごたえがある。

「次味噌くれ」

「んー、ホイ。じゃ、醤油ちょーだい」

 「ホラ」とラーメン丼を渡される。うん、醤油もギトギトせずにあっさりしてるけど口に広がる包み込むような味。こっちの麺もウマイ。手作りかな?

『手作りだと思うぞ。厨房から匂うからな』

 え、ヒトガタのときも嗅覚鋭いの?匂うって。

『え、まあ。普通の人間よりは嗅覚が鋭いって程度じゃないか?主は見付けられるな。確実に』

 いや、それ普通じゃねえから。何でここの奴等って普通がトチ狂ってんの?普通ってもっと平均的なことじゃないの?

『そっくりそのまま主に返すぜ』

 え、嘘。俺は普通の一般人Aだろ。ローとかカイトみたいに天然無自覚じゃないから。

『ああ、無自覚ではないな。意識的行動だ』

 えぇー?ちげーって。俺はフ・ツ・ウ!

『神獣呼んで普通に相手してしかも思いっきり説教して、命令に思いっきり殺気込めた奴のどこが普通だよ………』

 オイこら、聞こえてんぞ?

『聞こえるように言ったんだよ』

 ローとの会話とラーメンを食べることに集中していたから気付かなかったが、ふと意識を食堂に戻すとシーンと静かだった。え、なんで?さっきまでざわざわしてたじゃん。

 ボソボソと喋る周りに耳を傾けて聴覚に集中すると、何とか聞き取ることができた。

『おい、アイツ。神獣の神狼とラーメンずっと無言で食ってんだけど』

『怖ェな。たしかスカウトの奴だろ?』

『一年だよな。恐ろしいっつか、不気味だよな。いきなり神獣呼び出して』

『ずっと無言だし、仲悪いんじゃねえ?』

 などなど。そう言えばここ男だらけだな。男子校じゃねえはずだから食堂は別れてんのかな。スカウト、一年ってのは本当だけど。神狼と無言でラーメン突っついてるってのは、うん。まあ、心通話でずっと話してたからだろうな。端から見たら無言でラーメン突っついてるおかしな奴、だな。

『主の悪口か?』

 んー、でも気にするほどじゃないだろ。それに原因は心通話で話してるからだし。ホラ、きっと他の奴らもローの声聞きたいんだよ。神狼なんて多分簡単に見れないから?

『……多分も疑問符もつけなくていい。普通に見れないからな』

 なら、話してやれよ。サービス精神は過剰なぐらいが丁度いいと思うぜ?

「…はあ、コレでいいのか?」

 おお、周りの奴らの目が落ちそうなほど開いたんだけど。まあ確かに低くてなんというか、エロい声だもんねー、ローは。

「おい、主。俺が喋るんだったら主も喋れ」

「ん、あーはいはい。さて、じゃあどうしようか。このまま帰る?それとも……アソんで行く?」

「……アソぶか。でも、何で?」

 もうとっくにラーメンは食い終わったからな。片付けてもいいかもしれないけど、アソぶんならローで遊びたいよなぁ。ん、なら。

「オイこら!てめえ!人をトばして捨て置くんじゃねえ!」

 ん?なんでここで虎がでてくるかなぁ?予定が狂うじゃねえか。……あ、イイコト思い付いた。

『……やっぱりいい性格してるよ』

「いやぁ、それほどでもー。さ、てと。虎くん、なんでここにいるんだい?」

「あ?んなもん主の匂いを追ってに決まって…」

「ん、そっかー。でもね?てめえは呼んでねえんだよ。大人しく部屋で簀巻きにでもなってろや」

「ブフッ、す、簀巻き……」

「んぅ?ロウガくん?君もあっちがいい?」

「……っ、い、やです!」

 ん、声に出して言ったな。賢い。あ、やっと虎も空気読んだな。顔まぁっさお♪やぁだぁな~そんな反応しないでよ。…やりたくなるだろ?

「ふっふふ、そんな、お前みたいなバカな奴は嫌いじゃないよ?潰しがいがあるからね」

「狼さん、俺の子虐めんのはやめてよ。仕返しに飼い主をヤっちゃいそう、だから、さ」

「予想外だ。もしかして、同類、かな?」

「みたいだね。君とは気が合いそうだ」

「奇遇だね、俺もだよ」

 お互い契約獣を後ろに構え、笑顔で睨み合う。けれど俺もカイトも目は笑っておらず、火花が飛び交っているだろう。うん、長い付き合いになるかもな。

「……ロー、行くぞ。戻れ」

「……御意」

「琥珀も、帰るよ」

「…了解」

 お互い踵を返し歩き始める。契約獣はヒトガタから獣姿へと戻り、それぞれ契約主の肩に登る。あぁ、癒しだわぁ。

『…おい、主。疲れてんじゃないのか?俺に癒しを求めるなんて。休んだ方が……』

 いいの。ローは充分癒しだよ?だからホラ、大人しく肩乗ってて。

『…ん、無理はするなよ』

 ……んぅあ”あ”ぁ”ぁ”ッ!なんでそう見た目カワイイのに性格カッコいいかな!?俺を殺したいのか!?溺愛させたいのか!?安心しろ、もうお前に溺れてるから。

『……主、すまん』

 え?あ、ヒトガタになった。なんで?俺の肩乗ってれば楽だろうに。

「……すまん」

「だからなに、が……ッ!」

 『何を謝ることがあるのか』、それを聞こうとしたとき、首に衝撃がきた。ローが手刀を俺の首に当ててきたのだ。いや、そんなに休ませたいなら言ってくれれば休むのに。無理矢理強硬手段に出なくても……。

『いや、主は絶対聞くだけで休まないだろ』

 ……ははっ、ごもっとも~。

 そうして俺の意識は闇の中に堕ちていったのだった。

『はあ、やっと寝たか。……本当に、面白い主だ』

 今まで俺を見た奴は数人いたはいた。でもそれは皆恐縮するか、俺を利用しようとするかだった。けれどこの主は俺を見て恐縮することも、利用しようとすることもせずにただの『俺』を見てふざけあって、初めてだ。こんな奴。俺よりは幾分と幼い、けれどここの人間たちに比べれば年を取ったこの主に、どんどんハマっていきそうだ。俺は、主がいなくなる限り、主の傍に。

「……だから、今はコレだけ」

 気を失った主の髪を一房掬って口づける。

 ああ、どうか。この主が茨の獣道を進まなければならない未来などないことを願う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神狼との契約 ルカ @0728-0731

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ