第3話 前途多難?
う、わぁ、空気がピリピリどころかビリビリしてんだけど。あぁ、ローが仔狼になれるみたいに虎も仔虎?になれるからキジトラ模様の猫に見えたわけか。ややこしいな。ならローも黙ってれば仔犬に見えるのかな?
「ちょ、ちょ、狼さん!現実逃避してないでよ!何とかしないと!」
「あぁー、あの二人はきっと仲がいいからこそああやって喧嘩をするんですよ」
「「よくねえ!」」
「ヒッ!」
「ほーらねぇ。息ピッタリ」
と言っても、ずっとこの空気でいるわけにもいかないしな。そろそろ何とかしないと。この間にも睨み合い、口喧嘩は続いてるし。クールなイメージのローが虎を相手にするとこんなになるなんてなあ。
「ああん!?てめぇ、いい加減にしろよ。狗畜生が!」
「ああ!?それはてめぇのほうだ!」
まだ言い合いは続いていてついには手を出した。ハイ、やりすぎですね。
「オイ、てめえら。さっきからガキみてぇにギャーギャー喚いてんじゃねえよ。神獣なら周りを見る余裕を常に持てや」
「ああ?てめえには関係ねえだろ。狗畜生の飼い主様よぉ」
ああん?粋がるのも程々にしとけやくそガキ。
心でそう言ったら心通話で俺の思考が通じるローはピクッと跳ねてから手を下ろして黙った。うん、利口だ。
「狗畜生、ねえ?……ならお前は危険察知能力もない仔猫ちゃん、かなぁ?……やれ」
魔力なるものは知らないため『やれ』という命令に殺気を込める。それで声がかなり低くなった。勿論、それまでに殺気を漏らすというヘマはしない。
「……っ!御意」
ローが地を蹴り、虎の顔を手で鷲掴み、ドアに突っ込む。きっと打ち所が悪ければトんでいるだろう。はっ、ザマァ。きっと今の俺の顔は歪んでいるだろう。口調は意識して直してきたが性格までは難しい。
「……ひっとの不幸はっ、みっつの味~♪どう?殺った?」
ルンルンとスキップをしながら飛んでいった方向に向かう。あ、壁スゲェ壊れてる。コレ、俺が払うの?修理費。金無いけど。ま、いいや。
「…いや、殺ってはいないが、トんだな」
ん、やっぱりトんだか。スゴい音したからな。バゴォォォォッ!て。
「琥珀!大丈夫?」
……やっぱり行くよな。契約主だし。改めて周りを見るとかなり注目を浴びてるな。そりゃそうか。入学早々大騒ぎ巻き起こしたんだし。
「さて、ローも。アイツだけトぶのは不公平だと思うけど、ローをトばせる奴いないし…罰ゲーム……」
何がいいかな?多分物理的には効かないし、心理的にも強そうだ。ならそれ以外…これにするか。
「…あ、あの、主?そ、その…すまなかったとは思う…」
あぁ、やっぱりカワイイ。慌てて、オドオドしてて。カワイイな。
「…ん?そんなにさっきの俺に怯えてんならさっきみたいに説教するのもありか?」
「無しだ!」
きっと今の俺の顔はニマァと嗤っているんだろう。こんなときはいつでも楽しいものだ。
「アリ、だなぁ?意外な所に弱点を見つけたぜ」
もうすでにローの顔は真っ青で涙目だ。俺より10㎝位は大きいくせに、どこかカワイイんだよな。
「喧嘩のもとがどっちかなんてなぁ、んなもんどうでもいいんだよ。やるならとっとと済ませろや。……ああ、今度喧嘩するときは負けんのは許さねえぞ。殺るなら勝て。そもそも喧嘩をてめえから売らねえのは勿論、売られた喧嘩を買うんじゃねえ。買うからそこで喧嘩勃発するわけだ。上手く対処をしろ。相手がなんだ?んなもん関係ねぇんだよ。甘えんな「あ、あの…とりあえず、部屋に入ろう。かなり注目されてるし…神狼様が…」…あ?てめえもだよ。飼い主ならちゃんと躾をしろ。ただ見てるだけじゃダメに決まってんだろ。止めろ。止めて、叱れ。なにやってんだ!てな。……お前ら、分かったか?」
最後に睨みを効かせて確認すると二人ともコクコクと首を縦に降る。……そうじゃねえよなぁ?
「返事は口に出せ。…分かったか?」
『分かったか?』がまたかなり低くなった。まあ、この方が効果あるしな。
「「はっ、はい!」」
「ふん、ならいい。カイト…は無理だな。ロー、虎を入れてやってくれ」
カイトは俺よりも小さい。俺が172㎝だから170㎝以下だろう。それに多く筋肉がついているとも思えない。この体格でローに匹敵する体格の虎を部屋に入れられるとはとても思えない。
「ぎょっ、御意!」
………あれ?もしかしてトラウマ植え付けた?そんなつもりなかったんだけど。そんなに怯えなくてもアレは説教のときと遊ぶときにしかしねぇよ?
「遊びはやめてくれ!」
えぇ?何、そんなに怖かったの?やだなぁ、そんな反応すんなよ。……やりたくなるだろ?
「と、虎ッ!入れたぞ!」
そんなに怯えなくてもォ~♪
「ははっ、冗談だよ。ご苦労さん。あー、そろそろ飯時だね、食堂に行こうか。自己紹介はそのときに、ね」
ローは素早く仔狼姿になった。学んだのかそれともそっちの方が怒られないと思ったのか、どっちだ。
「とゆーか、本気出せば俺なんて簡単に殺せるくせに。何をそんなにビクビクしてんのさ」
『……冗談でも、二度とそんなことは言うな』
「……言ったらどうなんの?」
『二度と言えないように調教してやる』
ゾクッと冷たいものが背筋を走った。本当に、俺のどこが怖いんだよ。お前の方が何倍も怖いじゃねえか。
「どうしたの?」
俺の雰囲気が変わったことに気付いたのか、カイトが振り向いた。機敏な気配の察知、コイツ、けっこうやるな。
「いや、何でもない。食堂って何があるんだ?」
「え?ご飯」
……そりゃそうだろうよ。『何言ってんの?』みたいな顔しなくても俺にもそんなんは分かるわ。なんだ、お前は天然か。
「…だよな。メニューは何か知ってるか?」
「え?聞いたところによると、目玉の煮付け…」
「何のだよ!?魚!?豚!?」
「え?たしか龍。で、あとは白蛇の血のワイン、狼の手、虎の耳、鴉の羽…」
「お前それ絶対騙されてるよ」
「えっ、嘘!虎の耳楽しみにしてたのに…」
オイオイ…アレを信じてしかも虎を楽しみにしてるって…。ロー……
『分かってる。コイツは天然記念物だ。しかも無自覚』
大正解。虎も中々可哀想だなぁ。そのうちカイトが虎の耳食いたいとか言って噛んだらどうしよう……流石にそこまではしないよな。
「あ、琥珀の耳、美味しいのかなぁ?」
「……………」
『……………』
「『止めてやってくれ!』」
「え?何が?あ、もしかして琥珀のこと?やだなぁ、冗談に決まってんじゃん」
そう言ってカイトはハハハッと笑う。それを聞いて俺の背中には汗が流れる。何となく悟った気がする。
この中で一番恐ろしいのはコイツ《カイト》だっ!
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