無職
「無職の呼ぶのはやめてくれ、私はこれでもつい一年前までは、立派なサラリーマンだったんだ」
いわゆるエリートサラリーマンだ。と彼は言った。
これが噂の、年寄りの自分語りか?僕も人のこと言えないけど。
「そんな顔すんなよ」と元サラリーマンは言う。
「私が君に話せるのは、せいぜい自分の昔の武勇伝くらいだからね。君は話を聞きに来たんだろ。なら聞いておくれよ、死に際の擦れっ枯らしの昔話を」
「昔話って、自称しちゃうんですか」
手を組んで、膝の上に乗せた彼はまだ一度も僕と目を合わせていなかった。なのに僕はどことなく、彼に親近感を感じていた。
「はは」
彼は息だけで笑って、「ああ。あれは昔話だ。昔話の主人公も、昔の私で、今の私ではない。私では、ない」
元サラリーマンの語りはこうして幕を開けた。
永遠の長さ 三隅すみす @miss_miss_miss
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