第三回 「児童養護」
はいどうもー、儲かってますか―、
ぼちぼちでんなー、
これで三回目の登場となりました。よく飽きずにやってるなあ、と自分で自分を褒めております。これからも張り切っていきたいと思うんですけれども。(源)
はいな。今回もテンション上げていきまひょ。(平)
今回は児童養護について語りたいと思います。(源)
それじゃあ、テンション上げてはあかんがな。(平)
*
さて、二〇一四年八月に厚生労働省が発表した『二〇一三年に全国の児童相談所が扱った児童虐待の件数』は七万三七六五件で、前年度より七〇六四件増えております。統計を取り始めた一九九〇年度から二十三年連続の過去最多記録を更新しました。これは五年前の一・七倍、十年前の二・八倍になります。(源)
あかんほうの記録更新やね。二○一四年の自殺者数が二万五四二七名やから、その二・九倍でっか。こりゃ多いわ。(平)
件数が増加している原因について、厚労省は「虐待が増えた」ことに加えて、「社会的意識の高まり」を上げています。(源)
みんなが関心を持つようになったので、相談件数が増えたという、いつものあれやね。(平)
さらに虐待児童だけでなく、それを日常的に目撃していた兄弟についても、心理的虐待を受けたと考えて対応するように厚生労働省が自治体に通知したことも影響している、と言われています。(源)
へ? それやったら増加分が少ないような気がしますなぁ。(平)
今回は、その児童虐待の実態についてではなく、増加する被虐待児童を保護している児童養護施設のほうを語りたいと思います。先日、とある非常に有名な児童養護施設の『求人票』と『雇い入れ時の本人通知事項の一覧表』を並べて見る機会がありまして、その内容に愕然といたしました。(源)
何でですのん?(平)
ハローワークで一般公開されている求人票は、雇用条件の基本的な事項を記載している訳ですが、そちらには「昇給あり」という記載があるのに、雇い入れ時の通知事項には「昇給なし」と明記されております。(源)
えっ、それは虚偽申告と違いますのん?(平)
さらに「契約更新時に昇給する場合があります」という申し訳程度の記載がありまして。その方は、確か「正社員」ということで採用されたはずですから「期限の定めのない労働契約」なのですが、なぜか契約更新があることになっています。これでは有期契約社員ですね。試用期間中の労働条件かとも思いましたが、それならば昇給の話なんか、記載するわけがありません。試用と本採用で、ここまで労働条件が異なるのも問題です。(源)
ほうほう。(平)
休日についても求人票の「週二回」が、「週一回+半日休暇」と変わっておりました。(源)
半日休暇が一日休暇の二倍あったら同じと違いますのん? 別に休んだ事実が同じやったら、どちらでも同じように思いますが。(平)
公休日の定義は「連続する二十四時間の休日」ですから、半日休暇は公休日には該当しません。ですから、求人票の休日数には合算できないことになりますね。他にもいろいろとつっこみどころ満載でして、これ両方持ってハローワークか労働基準監督署に駆け込んだら、面白いことになりそうだなと思いました。(源)
あんさんも人が悪うおますな。(平)
一般企業がやったらネットで袋叩きにあいそうなことを社会福祉法人が普通にやっているのは、法人自身の認識の甘さという理由もあるでしょう。名前は差しさわりがありすぎて言えませんが、日本有数の施設でこの程度の認識ですからね。もっと小規模な施設で何が行われているかは、想像するのも恐ろしい。ただ、この相違点の裏には「背に腹はかえられない」という事情があるように思います。実際の労働条件を正直に求人票に書いたら、誰もそんな仕事をしたいとは思いません。甘めに書いて引き付けて、採用直前に明示しないと、普通は近寄りもしません。それぐらいひどい。ブラック企業どころか、ブラックホール企業ですね。さっさと待遇改善すればいいように思いますが、これもできません。児童養護施設のような社会福祉法人は営利団体ではありませんから、自治体からの補助金や一般からの寄附で収支が成り立っています。その収入側の源泉がケチ臭ければ、どう考えても「経費の大半が労務費」としか思えない児童養護施設は、支出側の職員の待遇改善をしたくても、しようがありません。(源)
まあ、ない金は出せんわなぁ。(平)
児童虐待の件数が増加する一方で、その保護活動を支えるはずの自治体からの補助金が増えなければ、皺よせが『職員の労働時間と賃金』にくるのは当然で、長時間労働と低賃金が常態化します。さらに、社会福祉法人全体に蔓延する「労働条件が悪くて賃金が安いのは、社会福祉のデフォルトである」という認識が、業界の自浄作用の阻害要因となっています。現在の社会福祉行政は、よく言えば職員の「善意」あるいは「奉仕」で、悪く言えば「世間知らず」で成り立っていると言えます。(源)
自分達で「劣悪な労働環境」と言うとったら世話ないがな。まあ、わざわざ大変なことを自ら進んでするんやから、自己犠牲の精神が横溢しているんでっしゃろな。(平)
社会問題が拡大したら、それに対する対策費用は増加して当然ですし、対応する職員へのケアも重要になってきます。問題が深刻化する一方で、対応にあたる人員が疲弊しては、元も子もありません。そんな小学生でも分かる図式が分からないようでは、現在の児童福祉行政は『児童養護という名の大人虐待』にすぎないと思います。(源)
あのー、源氏蛍はん。今回はなんだか相当手厳しゅうおますな。(平)
まあ、いろいろと思うところがありまして。(源)
はいはーい。(平)
どうしました平家蟹さん、今回も何か思いつきましたか。(源)
はいな。今、社会福祉政策について、根本的な解決策を思いつきましてん。(平)
ほほう、社会福祉政策とは大きく出ましたね。読者の興味をがっちりと引きつけそうな大胆なセリフですが、本当に大丈夫ですか。前回までは許してもらえたようですが、そろそろコケるとめちゃくちゃ叩かれますよ。(源)
大丈夫、大丈夫。要するに「現場知っとったら、馬鹿馬鹿しくてやってられへん」ということでっしゃろ。(平)
ええと――ちょっと違いますが、まあ、だいたい言いたいことはそんなところですかね。(源)
だったら、現場に放り込んだらええですやん。(平)
え、誰をですか?(源)
せやから、お偉いさんを現場に放り込んだらええですやん。いまさら年寄を放り込んでも足手まといでっやろから、入省したてのキャリアを最初に最先端の現場に放り込んで、現場の処遇で扱ったら宜しいのと違いますのん。(平)
それじゃあ、キャリアになりたい人がいなくなりますし、現場もお偉いさんの扱いに困りませんか。(源)
だからいかんのと違います? 自分が我慢できない低賃金で、我慢できない過重労働させたら、そりゃ誰も嫌になりますがな。どうせ、キャリアの実習は期間限定の我慢ですやろ。だったら最低限を経験したらいいですやん。現場のほうも『お偉いさん』扱いするから、自分たちの待遇改善に結びつかんのですわ。こき使ったら宜し。それが実態で、現実ですやん。(平)
ほほう。(源)
あの源氏蛍はん、大丈夫でっか。また目付きが変わってまんがな。(平)
そういえば、中国への企業進出が最盛期の頃に、中国現地法人の日本人駐在員の間で『OKY』という言葉が流行ったことがありましたね。ふふふ。「おまえ、こっちきて、やってみろ」の略で、現場の事情を知らずに無理難題を押し付けてくる本社への揶揄でしたねえ。ふふふ。「現場を知らずして、管理者を名乗るなかれ」というのは、一般企業じゃ常識ですし。ふふふ。防衛庁だと海外派遣かな。警察庁だと、歌舞伎町勤務とか。ふふふ。(源)
源氏蛍はん、ほんまに大丈夫でっか。なんかおかしな笑い方でんがな。おーい……(平)
(終わり)
源氏蛍と平家蟹 阿井上夫 @Aiueo
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