第二回 「自己責任」

 はいどうもー、源氏蛍げんじぼたるですー。(源)


 毎度おおきにー、平家蟹へいけがにですー。(平)


 無事に二回目の登場となりまして、嬉しい限りでございます。これからも張り切っていきたいと思うんですけれども。(源)


 はいな。テンション上げていきましょ。(平)


 今日は国際的な事件について語りたいと思いますが。(源)


 えっ、ほんまでっか。わし、英語はよう分からん。(平)


 大丈夫、すべて日本語です。(源)


 なら安心ですわ。(平)


 *


 さて、現地の日付では二○十五年三月十八日、チュニジアの首都チュニスで、国民議会議事堂を数名の武装集団が襲撃する事件が発生しました。さらに、この武装集団は隣接するバルドー国立博物館において、複数の観光客を人質にして立てこもる事件を引き起こし、数時間後に現地治安部隊が実行犯二名を射殺。拘束されていた人質は全員解放されましたが、このテロ事件の経過の中で、日本人を含む多数の死傷者が出ています。現時点で、日本人三名の死亡と三名の負傷が確認されております。(源)


 また武装集団のテロ事件でっか。海外は恐ろしいですなあ。(平)


 中東の観光地で日本人が犠牲となった事件には、一九九七年にエジプトのルクソールで発生した襲撃事件がありましたが、この時は日本人十名を含む約六十名が過激派に殺害されました。(源)


 危ないところに自分から観光に行って、凶悪な事件に遭遇したんやったら、『自己責任』と違いますのん?(平)


 確かに、この事件の後、「危険なところに行ったのだから自己責任だ」という議論が沸騰しそうですが、海外リスク管理の専門家であれば、チュニジアのチュニスを『危険地域』とは言いません。(源)


 えっ、なんででっか? チュニジアゆうたらアフリカでっしゃろ? 武装テロ事件のあったアルジェリアの隣ですやん。(平)


 チュニジアは、北アフリカの中では比較的治安が安定している国で、古代ローマ時代の遺跡で知られる『観光立国』でもあります。むしろ事件によって経済に大きな打撃を受ける可能性もあり、政府も治安維持には注意を払っています。(源)


 中東や北アフリカは、どこでも危険なんと違いますのん?(平)


 それは誤解ですね。海外のリスクを簡単に把握するためには、日本の外務省が作成している『海外安全ホームページ』を参照するのが一番です。このページを元にして、一般的な企業は「海外出張に行ってもよいかどうか」を判断していますから。(源)


 日本国の公式見解ということやね。(平)


 まあ、そうですね。それで、今回の事件の発生は十八日ですが、その翌日となる十九日の午前時点で、外務省はチュニスへの渡航に関する危険度のレベルを「十分注意して下さい」としております。これは同じく観光地で言うと、同日同時点の『インドネシアのバリ島』と同じです。(源)


 バリ島と同じでっか!? つまり、今回の事件を『危険な地域にわざわざ行ったのだから、自己責任だ』と言うんやったら、バリ島に行くのもアホのやることになりまんな。(平)


 そうなりますね。(源)


 大雑把に『中東・アフリカ=危険=自己責任』と思うとりましたが。(平)


 もちろん、「日本より安全な国はない」と考えれば、「海外旅行はすべて危険であり、自己責任の世界である」とも言えます。だからといって安易に『危険なところに旅行に行ったアホ』扱いするのは、物事の本質を見誤らせる元になります。(源)

 

 へー、そうでっか。でも日本よりは危険なんでっしゃろ。(平)


 まあ、だいたいはそうですね。でも、それを言い出すと、アメリカの同時多発テロでツインタワーに勤務していて犠牲になった日本人従業員まで、『そんな危険なところで仕事していたアホ』扱いになってしまいますが。(源)


 まあ、それは言い過ぎですわなあ。(平)


 ですから、あまり安易な『自己責任』は、本人の見識の低さを露呈することになるので、言わないほうが身のためです。(源)


 はいはーい。(平)


 どうしました平家蟹さん、今回も急に手を上げて。(源)


 今、海外旅行の『自己責任』論について、重大な解決策を思いつきましてん。(平)


 ほほう、またもや読者の興味をがっちりと引きつけそうな大胆なセリフですが、本当に大丈夫ですか。前回は無事に済みましたが、ここでコケるとめちゃくちゃ叩かれますよ。(源)


 大丈夫、大丈夫。海外旅行の危険度は、国の名前や場所のイメージだけで安易に判断しちゃいかん、ということでっしゃろ。(平)


 ええ、その通りです。(源)


 せやかて実際、行くほうの日本人の問題もありますやん。(平)


 まあ、ろくに現地の治安情報を調べもしないで渡航する人はいますからね。同じところに行っても危険な目にあう人は出ますし。(源)


 それやったら、空港の出国カウンターでチェックすればいいですやん。行先の国別に、危険地域や注意事項、渡航中の行動や言動などの注意点など、その辺を○×式かなんかで。「チュニジアに行きたいかー」「おーっ」てな具合に。で、点数が低かったら「自己責任の意識が低い」から出国できないと。(平)


 あの……そうしますと海外旅行客が激減しませんか?(源)


 しゃあないですやん。自己責任の問題でっしゃろ。責任とれない人は出さんでよろし、っていうのが筋ですやん。無防備に出すほうが悪いということになりまへんか。(平)


 まあ、そう、かなあ?(源)


 そうですがな。どうしても行きたかったら、それ用の事前研修を受ければよろし。そうでんな、自動車学校みたいなやつでどうでっしゃろ。テロに遭遇した時の対応なんか、実地訓練で。いっそのこと免許制にすればよろし。『海外旅行免許』とか。それやったら「自己責任」とか言わなくても済みますやん。それなりの準備はしている訳でっから。事故は本人のせいではない、いうことになりますやん。(平)


 ほほう。(源)


 あの源氏蛍はん、大丈夫でっか。今回もなんか目付きが変わってまんがな。(平)


 すると、それに伴って利権が生じますねえ。ふふふ。安全ハンドブックとか、免許対策の参考書や問題集なんか、必要ですわねえ。ふふふ。試験用紙の印刷なんかも。ふふふ。なんだか、お金の臭いがぷんぷんしますねえ。ふふふ。(源)


 源氏蛍はん、ほんまに大丈夫でっか。なんかおかしな笑い方でんがな。おーい……(平)


(終わり)

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