この作品を読み終わった時、脳裏に浮かんできた作品があります。
森鴎外の名作――高瀬舟。弟殺しにより島流しの刑となった罪人と、その人物を護送する任を受けた役人のやり取りを描いた短編作品。
実際に読めば分かりますが、話の展開も登場人物の役回りもまるで違います。潮騒の告白は高瀬舟のそれよりも幾分黒ずんでいて、聞き手を呆然とさせるような内容となっています。
しかし、両作品の読了感はかなり近いです。なんというか――遣る瀬無いというか、それこそ高瀬舟の役人が抱いた「オオトリテエ(権威)に従うしかない」という感情なのでしょうか。
前半の描写も優れており、「後ろ向き」な話の雰囲気や、主人公に共感を覚えることが出来、告白の部分に無理なく(といってもかなりの衝撃ですが)入ることが出来ました。
彼のやったことは許されるのか。それを決める権利が誰かにあるのか。
怖いのみならず、悩ませるあたりが、高瀬舟とよく似ているのです。
壮絶な話でした。
その一言に尽きるのですが、それではレビューにならないので、停止してしまった思考を無理矢理働かせて書きます。
まず、この小説を「良い」と評価してしまって、誰かを傷つけることにならないだろうかと思いをめぐらせてしまいます。
短い話の中で何度も、自分の倫理観や、現実を直視する勇気などを試されます。
主人公に自分を投影して、あの大災害で自分は何をしただろうかとあれこれ考えていたところで、突然突きつけられる独白。
絶望的なエピソード。
そして、そこに結論は無い。
畳み掛けられ唐突に終わるこのお話。
1文字も感想もわかないほど、読後は完全に思考停止しました。
書きたい書きたいと思いながら言葉が出てこず、このレビューを書くのに1週間かかりました。
最後にもう一度。
壮絶な話でした。