そいつをお金嫌悪症に近づけてはいけない

ちびまるフォイ

女の子との生活の代償

「お会計1200円になりまーーす」


「ぐはぁぁぁぁ!!」


急に血を吐いて地面にうずくまった俺を見て店員が慌てる。


「お、お客様!? いったいどうしたんですか!?

 料金払いたくないがためにここまでするんですか!?」


「そ、そうじゃない……。1200円でここまでしない……」


症状は急にやって来た。自分でもなにがなんだかわからない。

ただ急にお金が減っているのを見ると……。


「ぐはぁぁぁぁ!!!」


体中の神経が拒絶の意思を示すように苦しくなる。

コンビニには財布だけおいて、そのまま病院へ直行した。


医者いわく。


「お金嫌悪症ですね」


「な、なんですかそれ……」


「世界2大奇病のひとつです。

 お金を使うと体が苦しくなってしまうんです。

 感染経路も、治療法もまだわかっていません」


「そんな……!」


「いいですか、今あなたはお金を使うイコール体に負担をかけます。

 この先、できるだけお金を使わないようにしてください。

 1回1回があなたの寿命を縮めますからね」


「き、気を付けます……」


「それじゃ診療代もらいますね」


「ぐはぁぁぁぁぁぁ!!!!」


病院にいって症状が悪化するのはいまだかつてなかった。




家に帰ると、部屋からお金を締め出して引きこもった。


「直接、金を見なければ大丈夫だ……」


血を吐いたのは主に支払いのタイミングだったので全財産をネットマネーに変換。

ネット上でお金をやり取りすることに。


さっそくネットで食べ物を購入する。


「ぐほぁあぁぁぁ!!!! だめだぁぁぁ!!」


全力で吐血してPCが殺人事件後の遺留品のようなありさまに。

どうやらネットだろうが現実だろうが、お金を使えばアウトらしい。


「し、しかし……お金を使わないと生きていけない……」


電気。

水道。

ネット、食事……なにもかも金でまかわれている。


そのたびに血を吐いていては出血多量でこっちが死んでしまう。

とはいえお金を使わないことには生活が成り立たない。


「だ、誰か! 俺のためにお金をつかってくれーー!!」



――――――――――――――――――


【急募】受け取った金を使う人募集中

 

 お金を使うだけの簡単なお仕事です。

 未経験者歓迎。


――――――――――――――――――



マネーロンダリングにもとられかねない募集だったが、

希望者が1人きたことで俺は思い切り喜んだ。


「はじめまして、よろしくお願いします」


女の子がやってきた。

メイクやエステに金をかけているのだろうと身なりですぐわかる品質。


「それじゃ、俺の代わりにお金を使ってきてくれ」


「わかりました」


女にお金を渡すだけの謎アルバイトがはじまった。

俺がお金を渡して、女が支払いに行って商品を受け取る。それだけだ。


「あのさ、どうして君はこの仕事を受けたんだ?

 退屈なわりに勤務回数は多いし、大変な仕事だろう?」


「実はある病気があって……それでこの仕事を受けたんです」


「……そうか、お金が必要なんだね」


俺は女の苦労を考えて少しバイト代を上げた。




しばらくぶりに病院へいくと医者は驚いていた。


「すごいですね! 症状がよくなっていますよ!

 これは貴重な症例報告になります! いったいなにしたんですか!?」


「ええ、実は支払いを代わりにやってもらったんです」


俺は財布を持ってもらっている女を紹介した。


「お金が減るのを見なければ発作は出ませんから」


「なるほど! 僕の愛人と同じ理屈ですね!」

「あんたと一緒にするな」


医者をぶん殴ったあと、会計をお願いした。


「なにか変わったことがあれば言ってください」


医者は腫れた顔で言った。


「安心してください。もうここには来ませんよ。

 この調子で病気を治しますから」


お金嫌悪症はお金を使わずに、お金を貯めるのが治療法だと気付いた。

支払いはバイトの女の子にまかせて、俺は仕事でお金をかせぐ。


俺と女の子はいつも一緒の二人三脚で生活した。

こっれで必ず治療できる。





数日後、医者は驚きのあまり言葉を失っていた。

かわりに俺が病状を医者に伝える。


「実は……お金を使いたくて使いたくてたまらないんです!

 だけど、お金嫌悪症なので使えば血を吐いてしまうしどうにかしてください!」


「世界2大奇病のもうひとつ、お金愛好症ですね。

 お金を使わないと血を吐いてしまうんです」


「なんじゃそりゃあああ!?」


お金を使わないと死ぬし、お金を使っても死ぬ。

こんなに相性の悪い病気を併発するなんて!!


「ところで、このお金愛好症は空気感染しかしないんですよ。

 至近距離で長時間空気感染しないと発症しないほど感染力は弱い。


 いったいどこで感染したんですか?」


「……あっ」


俺はバイトで雇った女の子の言葉を思い出した。




――実はある病気があって……それでこの仕事を受けたんです




「ある病気ってこれかよおぉぉぉ!!!」


お金嫌悪症とお金愛好症を併発させた俺は数日後死んだ。

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