エピローグ 草笛の音、川のせせらぎ

 10次元と、11次元。

 人間には到底理解し得ない、高次元がある。理屈を並べたところで、その世界を、見ることも、感じる事も出来ない。

 それでも人間は、仕合わせな生きものではないだろうか。

 フレイは、川のせせらぎに耳を傾けながら、青空を仰いだ。

 ルマリアの街は遠く砂漠の向こうに、蜃気楼のように揺れていた。涼しげな河原を境に、砂の世界と、緑の世界が別れている。今はこの川があるために、砂漠の進行は抑えられている。しかし、いずれ川が干上がれば、緑の世界も砂漠になってしまうのだろう。

 それでも、今を生きている人間は、遠く未来に思いをはせるだけでなく、現実の美しい川面に輝く光に目を奪われ、その音に心を和ませるのだ。

 熱をはらんだそよ風が吹き、フレイのくしゃくしゃの髪が、乱される。

「ちょうどここで、ルイーゼたちに、掴まったのか……」

 ひとり呟くと、フレイは、河原を見渡した。白い石が、光を反射し、ぼんやりとした光のヴェールが、河原を覆っているような感覚である。

 フレイは、河原から、少し傾斜している丘を登って、砂漠の方を振り返った。

 足下の草をちぎり、唇に当てて、音を鳴らす。

 また訪れる機会があるのだろうか。フレイは、ぼんやりと思いながら、唇に当てていた草を、放り投げた。

 風が吹き、小さな草の葉は、砂漠の方に向って、飛んでいく。

 フレイはきびすを返して、背を向けて歩き出した。

 突き動かすのは、理解できないものを解明するという、衝動だけである。

 普通の安定した生活を求めるには、もう少し歳を取らなければならないだろうな、と思いながら、フレイは足を進めた。

(おしまい)

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神に捧げる天使の華 オーロラ・ブレインバレー @JK_er

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