拝啓 今を生きる表現者へ
西木 草成
さて
という書き出しで始まったこの小説は『カクヨム』というサイトを通して、ツイッター、ネット、新聞、朝の報道番組へと多くの人びとが目にする場所によって晒し出されることになった。
『なぁ、知ってるかあの小説』
『あぁ、確か西木 草成だったけか? 笑ったよな。あいつ絶対引きこもりのニートだぜ』
『あのヘッタクソな文章。俺でも書けるっての』
中にはこういう者もいた。
『人のことよく見てる人だと思うな、僕』
『そうかなぁ・・・なんか見透かしてるっていうか、なんというか気味悪いと思うぜ』
『でも、だいたい人ってそういうこと考えてるんだよな』
『まぁ、否定はしないけどよ』
西木 草成はそれらの噂を知る由もなかった。
彼は死人だ。
死人にくちなし。
彼が有名になった理由それはただ一つだ。
ネット小説での公開遺書。
そもそもフォロワー数も少なく、ただただ暇つぶしにということでPV数が増える小説を書いているだけの弱小で発言権の少ない人間がなぜここまでのことをできたのか。
21世紀、アメリカでは某大統領が核戦争を仕掛けるかもしれないという異常事態であるにもかかわらず、狭い人間関係で戦争を起こしている現代社会は明日を生きるのにも理由が必要だった。
新作のコーヒー
新作のCD
新作の映画
新作の車
新作の小説
新作の漫画
新作の芸人
とにかく明日を生きるのに常に新しいものを望みすぎて、世界は新しいものがあるのが当たり前となり、物があふれ、生きる理由をなくし、自分の存在意義をなくし、世界は虚無で溢れた。
愛
そんなものは新しいものを求める世界には不要なものだった。
若さは永遠
=
年寄りは遺物
そんなことは口に出さないだろう。
だが人は心でそう囁く。
誰もが老けて、死んでゆく。
そんなことをも受け取ることのできないものは、安い愛を慰めに消費して行く。
そして孤独となる。
孤独は悪いことではない。
ただもう何も見つけられないということだ。
そんな社会に。
そんな世界に。
一人の人間が残した遺書に目が向いた。
彼はわかっているだろう。
こんなのものすぐに埋もれる。
新しいものに埋もれて消えるだろう。
だが、
そんなものはどうでもいい、
ただ、言わせてくれないかという願いを託した。
『拝啓 今を生きる表現者へ
さて
つまらないことは嫌い
楽しいことは好き
永遠は嫌い
限りあるものが好き
孤独が嫌い
共感することができる心が好き
新しいものを求めるのは嫌い
新しいもの愛でるのが好き
虚無主義が嫌い
なら抗え
書け
描け
叫べ
喚け
暴れろ
その思いを原稿用紙にブチまけろ
下手でもいい
汚くてもいい
自分の存在意義を示せ。
敬具』
拝啓 今を生きる表現者へ 西木 草成 @nisikisousei
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