今日はドラゴンのお肉が買えました。良い日です
さすらいの暇人
ファンタジー?ですね
ここは異世界
美しくも残酷で、醜くも甘美な世界
数多くの生命が誕生し、
また、数多くの生命が失われる
ごくごく普通の、ありふれた日常
不可思議で幻想的でそれとなく
現実的なファンタジー?な世界
西暦2117年
異世界へと繋がるゲートが完成して、
早くも30年が経ちました。
30年前というと、僕はまだ生まれていませんが結構荒れていたそうです。
ですが、日本の謎の行動力により異世界にある国々と和平を結ぶ事ができ平和な日々が訪れることになりました。
僕の父は母を見て
「やっぱりケモミミは最高でござるなあ〜」
と、言っていました。
その時の父は素直に気持ち悪いと思いました。ところで僕の母は獣人と呼ばれる種族のうちの猫族というそうです
父は語尾にニャーという言葉をつけて欲しいと言って母に殴られているのをよく見ます。
本来ならば異世界の言語でしか話せない母ですが、日本の科学力が齎す翻訳能力によって問題なく会話できています。
関係ありませんが、母は驚いた拍子にニャッ!という声を出します。
それを見た父は「萌えるでごさるぅ」
と言います。キモいですね
母に父との馴れ初めを聞いてみると
「一目惚れしたからその日のうちに既成事実を作ったのよ」
との事です。
異世界の人は逞しいですね。
現在は母ですが
そういえば今日異世界で、
いえ、異世界では面倒なのであちらの世界の名前を言いましょうか。
あちらの世界を日本ではキューレスと言います。
しっかりとした意味があるそうですが
僕は知りません。
それで今日は僕の誕生日なのでキューレスに初めてのおつかいに行ってきます。
キューレスに1人で行くには規定で、
12歳以上でないといけない。
それ未満であれば保護者同伴につき。
というものがあります。
少々遅れましたが、自己紹介させていただきますね。
本日より齢12歳になる
母はキューレスでは貴族の令嬢だそうですが、人族と違い面倒ごとの少ない地位になるそうです。
掟なので父が婿に行き苗字を名乗らせて貰いに訪ねたそうです。
父によると殺されそうになったから、
日本人の奥義
DO•GE•ZAを披露したそうです。
数百年も前から、伝えられるその奥義を父は母に対してよくやっています。
それを見ると、なぜか僕は泣きたくなってしまいます。
キューレスには何度か行った事がありますがとても景色が綺麗です。
目が疲れない程度に光っている星々。
曇っていなければ常時見えるそうです。初めて異世界に来た時は驚いて泣いてしまったそうです。
もう覚えてはいませんがね。
今では、それすらも良い思い出です。
さて、そろそろ王都に着きますね。
王都の名は日本語訳でシーザーといいます。意味は知りません。
日本語訳なら漢字が入るのでは?
と思うでしょうが日本語と英語は既に統一され、便利なものになっていますのでお気になさらずに。
大通りが見えてきました。
多種多様な種族が声を張り上げ、商品を宣伝しています。
そして、多種多様な種族がお店のものを見物し購入して行きます。
あれは魔族のガーゴイルですね。
非常に怖い容姿をしていますが、
とても誠実で恩義を忘れない武士のような種族だそうです。
それに、森族のエルフもいますね。
耳が尖っていて地球の人から見ると大変見目麗しく、人族と比べると長い時を生きる賢く気高い種族らしいです。
父が鼻息を荒くして、説明してくれました。
……キモい。
その他にも、
空を飛び回り、うっとりするような声で笑う種族
2メートルは軽く越す、筋肉質で肌が少し赤みがかった種族
複眼で両手両足が4本ずつ生えている種族
さらには、半透明で奥の景色がうっすら見えてしまうような種族など、
いちいち説明しては日が暮れてしまうくらいに多くの種族が生きています。
なんと活気溢れる世界でしょうか。
これほど気持ちが高揚する場所はあまり多くないでしょう。
まぁ、僕が知らないだけでもっと美しく、目が離せないような、そんな場所があるのでしょうが、もう、見には行けないでしょうね。
世界は美しくも危険があふれていますから…。
そんなことよりも、早く今夜の夕食になる食材を購入しないといけません。
「坊っちゃん!おかいものですかいっ!」
声をかけてきたのは僕の両親がよく行く肉屋の店主でした。
「ええ。本日、12歳の誕生日をむかえまたので。今夜のメインディッシュには何が相応しいのか…。」
「おっ!今日は坊っちゃんの誕生日なのかっ!それなら良いところにきたなっ!」
とても元気で声が大きいですが、
元からこんな感じなので気にしていません。
「良いところにきた。とはいったい?」
「それはなぁっ!ここだけの話なんだがなっ!なんとっ!ドラゴンの肉が手に入ったんだよっ!!」
どう考えてもここだけの話になっていませんが、お気になさらずに。
「ドラゴンのお肉ですか…。
それはまた凄いものを手に入れましたね」
「馬鹿野郎っ!もっと声を抑えねえと聞こえちまうだろうがっ!」
理不尽な気がしないでもありますが、
お気になさらずに。
「申し訳ありません。
もう少し声を抑えますね」
「がっはっはっはっ!冗談だよ!坊っちゃん!それにしてもその馬鹿丁寧な口調はやめねえかっ!」
「祖母に無理やり矯正されましたのでね…。店主さんが頼んでくださいませんか?」
「がっはっはっはーっ!
そいつは無理な相談よ!
そんなこと言ったら殺されちまう…」
最後に真面目な顔をして、
さっきまでの威勢はどうしたと言いたくなるほど声を小さくしてそう呟いた
「またまた。さすがの祖母でもそこまでましないでしょう。
それよりもドラゴンのお肉ですが
おいくらなのでしょうか?」
「容赦無くするんだがなあ…。
それは置いといてっ!ドラゴンの肉だな!大丈夫だっ!俺の方から坊っちゃんのおじいさまの方に請求しといてやんよっ!」
「じい様ですか。
そんなことをして良いのでしょうか?」
「気にすることはねぇっ!
あの人の器の大きさはシーザー1よっ!さあっ!持って行きなっ!」
「そうですね…。それではありがたくいただきます。では機会があればまた」
「おうっ!また来いよっ!」
店主さんの大きな声に押され帰路に着きます。
「おや、あの方は…」
キューレスに1人で来たのは初めてなので、折角ですから他にも見て回ろうとした矢先、見知った顔が…
「セリーナさん、こんなところで偶然ですね」
その方は私の通っている中学校に留学していたキューレス出身のエルフでした
「あ、玲さま…。こんなところで…
本当に…偶然……ですね」
ゆったりとした喋り方ですが、凛としていて美声といっても過言ではない声で返事がきました。
「そういえば、同じ学び舎の仲間なのですから呼び捨てでも構いませんよ。」
「…でも、貴族の人には……失礼はするなと…」
「気にすることはありませんよ。
仲間同士で呼び捨てにするのは失礼なことではありませんし。
それに、地球の人とのハーフなので
貴族といっても形だけのものです」
「…そう。じゃあ…玲くん……。
よろしくね…」
そういって微笑む彼女はまるで天使のような…
「どうしたの…?赤くなって…」
「い、いえ。なんでもありません。
それより、セリーナさんは何をしにこちらへ?」
「…こっちは、地球と違って…魔素にあふれてる…から」
「魔素…、ですか?」
「うん…。なくても…大丈夫。
でも…あると……うれしい」
「うーん。僕にはわかりかねますが、
魔素…好きなのですか?」
「…うん。ポカポカ…する。
…魔素が濃い場所…人族でも…感じること…できる。…行く?」
「もし、よければですが。ぜひ」
「…わかった。こっち」
そういって走る彼女を追いかけて…
「……これは、なんと」
セリーナさんについて行った先にあったものは
「これ…精霊樹。…いっぱい精霊が集まって…魔素を…放出する…」
僕の語彙力では、表すことが不可能なほど神聖な光景が一面に広がっていました。
「…ここ。実は…立ち入り禁止…」
「えっ」
「ごめん…でも、地球の友達に…見せたかった…」
「そう、ですか…」
「迷惑…だったよね。」
「いえ、これほど美しいものを私は生まれて初めて見ました。貴女のおかげです。セリーナさん」
「そう…よかった」
ホッと安心したように一息つく彼女は、精霊樹に勝らずとも劣らず、実に美しいものであった。
「えっ…!そんなこと言われたの…初めて」
照れたようにセリーナさんはそういった。よくみると少しばかり赤面してるように見える。
「えっと…、僕は何もいってなかったけど?」
「そう…だった。エルフは…少しだけ…人の目の輝きが、感情が…感じ取れる」
「なるほど…。それはちょっと、恥ずかしいですね」
「…そう言ってくれたのは…家族だけだった。…このことを言うと…ほとんどの人の目の…輝きが失われる。
そして…離れて行く。悲しい」
「それは…」
「ううん…なんでもない。…忘れて」
彼女は悲しげにそう言い、精霊樹に向き直る
「勝手な考えかもしれませんが気にすることではないと思います。
人は薄情です。知らないものや、自分に合わないものなら自分の近くに置こうとは思いません」
「…っ」
「でもね、セリーナさん。相手と仲良くなりたいのなら、まず相手を知ることがたいせつです。
相手を知って、自分を知ってもらう。
そして、互いを理解し納得できるなら、目の輝きを失わずにいられるかもしれません。」
「相手を、知る…」
「…すいません、上から目線なことを。」
「…ありがとう、わたし…頑張ってみる。」
「はい。それとセリーナさん。
僕の目の輝きは失われていますか?」
「え…。ううん。消えてない…」
「良かった…。では改めて、仲良くしてくださいね、セリーナさん。」
「ふふっ。こちらこそ…よろしくね」
彼女の微笑む顔を見るとなんだか顔が熱くなるような気がする…。
「また…赤くなってる?」
「…いえ、なんでもありませんよ。
ですが、そろそろ帰らないといけませんね」
「…ん。もうこんな時間」
「では、帰りましょうか…」
そういって後ろを向くと
「グルルルゥ、ガアァーーッ!」
「…そ、そんな…バーサークグリズリー…」
「逃げてっ!セリーナさん!」
「…で、でも!」
「いいからっ!はやく!」
「……う、うん…!」
躊躇う彼女を一喝し、
急いで逃げさせる。
僕はバーサークグリズリーらしき熊と相対した。
「グルゥゥ、」
「こっちだっ!」
セリーナさんの方に注意がいっていた熊に石を投げつけ、注意を僕に逸らす
「グルルルラァッ!」
「くっ!」
背後に重圧を感じつつ逃げ惑う僕。
だが、日本に棲息しているヒグマでも50km/h。
異世界に棲息する熊は、より早いだろう
半分は獣人の血を受け継いでるとはいえ、異世界の熊から逃げられるはずもなく
「ガウッ!」
ガッ!
「うぐぅっ!」
呆気なく捕まり
「これは、死にまし…」
グチャッ
「と、いったことがありまして」
「そんなことがあったのか」
僕は確かに死んだ。
ならば何故、誰かと話せるのか
それは
「まさか、死霊術士の方に会うとは。
異世界はファンタジーなことが多いですね」
「わたしにとっては地球の方がファンタジーなんだがな」
その方は顔を一切見せず、平均的な身長、中性的な声で性別がわからない状態でした。
そしてこの出会いは偶然ではないようで
「そういえば何故こんなところに?」
「ああ、実はな。お前さんの祖父母に頼まれてきたのさ」
「おじいさまとおばあさまがですか」
「そうだ。死霊術士は死者を従えることができるが、魂だけの存在とも会話できるのだ」
「魂だけ…」
「お前さんの体は悲惨なことになっていてな」
「なるほど」
「祖父母にお前さんの遺言を聞いてこいと言われてな」
「そのまえに…僕を従えて家族と合わせることはできないのでしょうか」
「できるが…。自我が消滅し生前の記憶もなくなってしまうのでな、全くもって意味がないのだよ。
それでも、やるかい?」
「やりませんよ。そんなことを聞かされたら」
「だろうな」
最後のは冗談だったようでふっ、と死霊術士は笑って見せた
「そういえば、お名前は?」
「うーむ、名乗るほどのものではないが、まあいい冥土の土産だ。聞かせてやろう。わたしの名はユーリ・ハイネルだ。さて、時間もあまりないようだし遺言を聞こうか」
「…あと、少ししか話せないのですね…」
「…そうだ」
「そうですか…。
両親には
今までお世話になりました。
先に逝くことになってしまい、
もうしわけありません。
そして、愛していますよ
と、だけお願いします」
「それだけで良いのか?」
「家族ですから、こんなものですよ。
そして、
セリーナさんにもお願いします。」
「あの娘か…。聞こう」
「セリーナさん
僕が持っていたお肉の所為で熊がやってきたのだとおもいます。
だから、僕は貴女を恨んでなんかいませんよ。
悔やむことはありません。それに貴女に見せて貰った精霊樹は、
それだけの美しさがありました。
感動をくれたセリーナさんに
感謝を。
と、」
「承った」
「祖父母にも
不孝者で、もうしわけありません。
いろいろと御世話を焼いていただきありがとうございました。
キューレスは危険な溢れてると
よく言っていたにもかかわらず、
馬鹿な孫ですいません。
先立つことをお許しください。
と、」
「あいわかった。」
「…何故でしょう。
体はないのに、涙がでそうです」
「泣いていますよ。泣けていますよ貴方は」
「そう…ですか。
もっと、色んなところを見たかったな
もっと、多くの人と話したかったな
もっと生きたかったな…
もっともっともっと…
ううっ…」
涙がぽろぽろとでてくる。
「あぁ、涙が止まりません」
「…時間です。…貴方の来世に、幸多からんことを…」
今日はとっても
ファンタジーな1日でしたね。
…さようなら
今日はドラゴンのお肉が買えました。良い日です さすらいの暇人 @Freebom
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