その首がそこにあるのは、果たして愛か憎悪か?

 おぞましくも奇怪な物語。

 死んだ婚約者の首が自分の胸から生えている。だが、それは他の誰にも見えない。そして、その首がやがて眼を開き……。

 生前、世間知らずだったお嬢様の婚約者が、死後、首だけとなって、ほんの微かに、だが確実に人格が変わってしまっているのが、恐ろしく、そして悲しい。

 これは結ばれることがなかった婚約者へ対する愛なのか、はたまた逆に憎悪なのか?
 この愛と憎悪の紙一重の狂気と執着が、女の性(さが)を現すのだと、簡単に言い切ってしまって良いものなのか?

 ともかく本作は死者の首が胸から生えてくるという、一歩間違えればギャグになってしまうシチュエーションで、ぎりぎり踏みとどまって、女の愛と狂気を描いた怪作である。