第3話 ゲートボールに向かえ!
たかがゲートボール、されどゲートボール。
60年前にスポーツに熱い情熱を燃やした男たちは、このスポーツを甘く見ていたわけでなはない。
毎日のように誰かの家に集まり、人数分買ってきた参考書『今日からはじめるゲートボール』を参考に勉強する。
ルールには細かい部分が多く、覚えるのは一苦労だ。
さらには身体を鍛えるべく、それぞれがそれぞれの家で自主トレを行っている。
目標は2ヵ月後の地区大会だ。
田吾作は貯まっている年金を使い、体中の筋肉をEMS運動させることができる器具を購入。
通信販売で59,800円だったのだが、これはなかなか使える。
まずはある程度筋肉をつけ、実際の運動により身体を動かす予定だ。
やはり身体を動かさないと、いかに筋肉をつけようが無意味なのである。
だが、動かすためにはそれなりの筋肉が必要だというわけだ。
田吾作が変わった。
家庭内で最初に気がついたのは、曾孫の朋美である。
「おじいちゃんが・・・おじいちゃんが・・・・・」
こう叫びながら母である悠美のところへ走っていく。
悠美は驚いた様子で「おじいちゃん!」と言いながら部屋に入ってきた。
娘の様子から、田吾作が動かなくなっているなどと思ったらしい。
スクワットをしている田吾作の姿を見て、今度は唖然となっていた。
「お・・・おじいちゃん・・・・なにしてるんですか・・・・」
恐る恐る声をかけてきた。
田吾作はキリッとした目で悠美を見ると
「胸が燃えているんじゃ!」
そう答えた。
電衛門と策治郎は、五色家の地下にあるトレーニングルームで汗を流す。
プールつきの豪華なトレーニングルームだ。
抵抗が多く膝にやさしい水の中での運動は理想的といえる。
プールの中で身体全体の筋肉を動かした後は、上半身の筋肉をマシンで鍛えるのだ。
1ヵ月後には、ここに田吾作の姿も加わることになる。
憲三郎は、毎日ある程度の運動はしていたので、今更頑張る必要はないとふんだ。
そのかわり、人数分のプロテクターを作っていた。
工学系の大学に通っていただけのことはある。
ちなみにゲートボールのプロテクターとはこのようなものである。
・ボールの直撃を受けても死なないようにすること
・パワー増幅装置はつけてはいけない
アバウトすぎる。
そもそも平均年齢82.6歳に『死なないように』ということが無理なことだ。
ちょっとした精神的ショックでもそうなりかねない。
それでも憲三郎は、ああでもないこうでもないと言いながら、1ヵ月後にはいくつかのプロトタイプを製作した。
由紀子は憲三郎の横で、全員分のユニフォームの製作をする。
白い地に黒い縦縞の入ったユニフォームである。
その昔、熱狂的なファンが多かった野球チームのユニフォームに酷似している。
全員の意見を聞いた結果、多数決でこうなった。
若干1名が、白地に黒とオレンジのラインと言ってヒンシュクをかった。
その他1名が赤いラインと言って、全員を悩ませたのだが、結局はこれに決まったのだ。
胸にはPERIKANの文字が入り、左袖にはペリカンのマークも入る。
1ヵ月後にはすでに全員分が完成した。
1ヵ月後・・・・・全員が五色家に集まった。
田吾作の肉体は随分鍛えられていた。
先日の定期健診でも、20歳は若返っていると言われたほどだ。
医者が驚いていた。
その肉体に、憲三郎の作ったプロテクターが装着される。
重量は約5kgといったところか。
胸部は金属膜で覆われているが内部にはエアーが入っており、軽量化と耐ショック性をあわせもっている。
さらにはそれ自体が酸素吸入器の役割もしており、もしもの場合も安心だ。
「それが田吾作のだ。」
憲三郎がそう言った。
よく見ると、プロテクターは全員違う形をしている。
憲三郎は、今の身体の状態とそれぞれの得意能力を考慮した結果だと言った。
これからも改良を加えていくつもりらしい。
「なあ憲三郎、スティックはどうするんじゃ?」
田吾作が聞いた。
ゲートボールをするためには、スティックが必要だ。
だが、これにはプロテクターとは違い、市販品しか使用してはならないことになっている。
スティックとひとことで言っても、様々な種類がある。
空気圧によりインパクト時の威力を上げるものや、爆発するものなど多彩である。
鋼鉄のハンマーのようなものまであるのだ。
スティックは個人で買いに行くことになった。
後日、町のスポーツ用品店で田吾作の選んだスティックは、中古品売り場の端っこにあった安いスティックである。
重さは3kg程度であるが、機能はよくわからない。
箱なし、説明書なしで1万円である。
これを選んだ理由は、『魂』という文字がスティックに刻まれていたからだ。
予算は5万円あったのだが、これが気に入った。
そんなこんなでさらに1ヶ月が過ぎ、ついに地区大会が開かれる日になった。
もちろん、ボールを打つ練習もした。
公営の運動場に、ゲートボールの打ちっぱなし施設があるのだ。
チームペリカンのメンバー5人+1羽は、やることはやったという意気込みでこのドームの前にいる。
ついに試合だ!
はじめての試合だが、メンバーには緊張感はなかった。
過去に数々の試練を乗り越えてきた猛者だからこそか。
ついに戦いの火蓋が切って落とされる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
田吾作が叫んだ。
続いて他のメンバーも叫んだ。
犬の散歩をしていた近くの人は、驚いていた。
散歩されていた犬は、ペリカンを見て吠えていた。
熱血!ゲートボールジジイ!! TAKA麻呂 @slayerd
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。熱血!ゲートボールジジイ!!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます